地域通貨をSDGsに活かすには|SDGsと地域活性化【第2部 第4回】

2022年02月24日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


今回は、「地域通貨(ローカル・マネー)」をとりあげます。地域通貨は景気停滞期に注目される傾向がありますが、本来は市場経済のゆがみや法定通貨が持つ問題を解消する目的をもって理念構築や実践がなされてきました。ここでは、「SDGsと地域活性化」の観点から、地域通貨を解説します。

地域通貨(ローカルマネー)とエコマネー、代替通貨

地域通貨の定義は様々ですが、ひらたくいえば、「地域通貨とは、地域の社会経済の活性化や環境配慮の視点から、モノやサービスの値付けをし直し、それらの地域内の交換を促す仕組みである」ということができます。
地域通貨を英語でいえば「ローカルマネー」です。ローカルマネーは特定の地域(あるいは特定のコミュニティ)での限定的な交換という目的を強調します。類似する言葉として「エコマネー」「代替通貨」があります。

エコマネーは、環境問題の解決への貢献という目的を強調します。地域内のモノの循環を促すとともに、モノのサービスによる代替、環境に配慮したモノの流通やサービス活動の活発化を狙いとするという点で、地域通貨はエコマネーでもあります。厳密にいえば、元通商産業省の加藤敏晴氏が1997年にエコマネーという活動を提唱しました。

代替通貨は、国が発行する法定通貨が基盤となる市場経済のゆがみの解消という目的を強調します。法定通貨は利子による預金を促し、預金をもとにした銀行による貸し付けにより、経済活動を活性化させます(信用創造といいます)。しかし、信用創造があるがゆえに、過剰な投機がなされ、時に経済破綻を繰り返してきました。預金をもとに銀行が融資や投資を行うことを間接金融といいますが、それが預金者にとって不本意なお金の使われ方になっているという問題もあります。代替通貨は、法定通貨による信用創造、間接金融の問題を解消し、相対での直接的な価値の交換を促します。
本稿でいう地域通貨は、エコマネー、代替通貨の考え方も含めた広義のものとします。

2000年代前半の地域通貨のブームと現在

地域通貨に関連する議論は、19世紀のオーウェン、マルクスら、20世紀のゲゼル、ポランニーらに遡ることができます。ゲゼルは「腐るお金」というマイナス利子の概念を提示し、プラス利子の問題点の改善を提案しました。1930年代の世界大恐慌の際には、ゲゼルの理論に基づき、ドイツやオーストリアで地域通貨が発行されました。

1980年代前半には海外で、1990年代後半には日本でも地域通貨の活動が立ち上がりました。2000年代前半に日本各地で地域通貨を導入するブームが起こりました。ブームのきっかけは、1999年にNHK-BSで放映された「エンデの遺言」という番組です。エンデは、「モモ」等の作成品で知られるドイツのファンタジー作家ですが、世界を覆う金融システムと自己増殖しながら暴走する「お金」の問題を深く指摘していました。

1999年版の環境白書では、いち早く地域通貨がとりあげられましたが、そこでは地域内循環、環境配慮の観点からの価格設定などおいて、地域通貨は環境配慮型であると考察されました。
2002年版の環境白書でも、地域通貨をとりあげています。同白書では、「世界で地域通貨を発行する組織は数千を超えるといわれており、国内においては、100を超える地域が地域通貨の実施及び準備を始めており、兵庫県、高知県等は地域通貨の発行団体に対する補助制度を導入しています。」と記しています。

2000年代前半の地域通貨のブームに対して、2000年代後半には冷めた声が多く聞かれました。実際に、中心商店街の振興のために割引券のように地域通貨を導入したところが多くありましたが上手くいかず、多くが継続できずに廃止されました。当時は、地域通貨の使用率の低さ、地域通貨の導入・運用コストの高さ、原資を負担する主体の存在等が普及を妨げる問題になりました。このため、中心市街地活性化等の地域経済の活性化ではなく、交換を介した地域内の関係づくり(コミュニティづくり)を重視することに目的を転じた地域通貨もありました。

出典)西部忠編著(2013)「地域通貨」<ミネルヴァ書房>、泉留雄らによる地域通貨の稼働調査等より筆者作成

地域通貨のかつての先進地

筆者がかつて調査をした北海道栗山町のクリンという地域通貨では、2000年に第2次試験導入がなされ、3度の流通試験をへて、2003年5月から本格導入がなされました。2002年には、地域通貨国際会議が同地で開催され、地域通貨の先進地として注目をされていました。そして2007年に次のようなリニューアルを行い、結果を得ました。

  • レジ袋を断った場合や里山の保全活動に参加した場合に取得できるなど、エコマネー的な試みを行っていたが、福祉目的に特化した交換システムとした。
  • 地域内サービスを高めるための情報システムを運用していたが廃止した。高齢者があまり利用しないこと、個人情報管理の問題、維持経費がかかることが、その理由である。
  • 地域内のサービス交換においてコーディネータを配置している。この際、知らないもの同士を紹介するようにして、新たな関係を作ることを重視している。
  • 1万4千人の町でクリンへの会員登録者は現在400人弱で一時期より少し減っている。高齢者の参加率は1割程度とみられる。
  • 現在の運営では、地域通貨の流通量にこだわるのではなく、必要とするニーズに応えること、質のよいコミュニケーションの手段とすること、継続を重視し、楽な方法で行うこと等にこだわっている。
  • 高齢者は、地域通貨でサービスを受けるのではなく、むしろサービスの供給側として参加することを喜んでいる。

以上のことには、当時の地域通貨の問題点が象徴されています。問題点は2つありましたが、第1に「エコマネー的な環境配慮型のモノやサービスの交換」という目的に限定した使用には、普及上の限界があったこと。第2に情報管理や運営の維持管理コストが確保しきれなかったことです。
いま、再び地域通貨が注目されているポイントもここにあります。電子決済の普及により、ICカードやブロック・チェーンといった技術を用いて地域通貨を運用し、地域通貨のコストの問題を解消できる状況になってきたためです。
また、最近は地域金融機関が地域通貨に関心を高めていますが、これも電子決済の普及によるところが大きいと考えられます。

地域通貨の持つ機能とSDGs

2000年代の地域通貨実験ブームと淘汰を経て、今は地域通貨の成熟段階にあるといえます。表2に、現在の地域通貨の持つ3つの機能とSDGsとの関連を整理しました。

1.地域内の交換を促す機能

地域内のモノやサービスの供給主体を活性化させる機能です。景気の停滞期にあっては、停滞・衰退する地域産業の生産物の地域内流通を促すために、地域通貨が強力な武器となります。
ただし、地域商店街に魅力的な商品がなかったり、買い物でのアクセスに問題があったりすれば、中心市街地の商業の活性化のためのはずの地域通貨の多くが、郊外の大型店で利用されてしまうことになりがちです。地域通貨の導入とあわせた地域商店街の側の事業改善が必要です。
また、地域内の福祉サービスの交換を行うことで、高齢者や身体障がい者の福祉の向上となります。地産地消による輸送過程によって環境負荷削減という効果も期待できます。

2.コミュニティ(社会関係資本)を創造し、強める機能

地域通貨による交換を通じて、人と人とのつながりをつくるという機能です。人と人とのつながりは、それそのものが人の生きる歓びを高めるものとなるとともに、地域づくりの基盤(すなわち、社会関係資本)となります。
社会学者のパットナムは、社会関係資本を「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることができる信頼、規範、ネットワーク」だと定義しました。人々が相互に信頼しあっており、互酬性(助け合い)の価値観を共有し、ネットワークを築いている状態が社会関係資本であり、それが社会参加やコミュニティ活動、パートナーシップの基盤となるというわけです。

3.モノやサービスの再価値づけを行い、その情報媒体となる機能

これはグリーン消費も含めたエシカル消費を促す機能と言い換えてもいいでしょう。エシカル消費は、経済的、利己的な費用便益で消費行動を行うことの問題点を解消するため、環境や公正といった観点で他者に配慮した消費を行うことです。SDGsの12番目の目標「つくる責任 つかう責任」がエシカル消費に相当します。
エシカル消費の対象となる商品には、フェアトレード認証商品、障がい者支援につながる商品、地産地消の農産物、被災地でつくられたもの、伝統工芸品、環境配慮商品等があります。地域通貨では、交換対象のモノやサービスを他者に配慮した商品に限定したり、これらの商品における特典を設けることで、エシカル消費を促進することができます。
また、地域通貨では、モノやサービスの交換に留まらず、交換される商品の情報を提供する媒体となることで、消費者の学習を促すことが期待できます。

SDGsの理念からみた地域通貨

表2に示すように、地域通貨はSDGsの道具となり得ますが、どのような機能を重視するかによって、異なるタイプの地域通貨が出現しています。地域内の交換を重視し、商店街等の振興を図る地域経済重視型地域通貨もあれば、コミュニティづくり重視型、環境配慮促進型の地域通貨もあります。いずれのタイプの地域通貨も、SDGsの17のゴールのいずれかの達成に貢献します。
SDGsの重要な理念である「誰一人取り残さない」という観点から考えると、地域通貨はどうあるべきでしょうか。先述しましたが、地域商店街の活性化になるよう割引券等のように地域通貨を発行しても、それが大規模店ばかりで使われ、商店街で使われないことがあります。地域通貨が商店街で使われるように、商店街支援をセットした地域通貨の設計が必要です。

また、里山の保全活動に参加すると地域通貨がもらえるという仕組みを作ったとしても、里山での作業に制約が多い障がい者の方にとっては、地域通貨は無縁なものとなります。健常者だけが使う地域通貨では、SDGsの達成に貢献するとはいいきれません。
サービスの交換も同様です。障がい者を支援するボランティア活動に地域通貨を発行するのはいいのですが、障がい者がほどこしを受けるだけでなく、障がい者の社会参加に地域通貨を発行するような観点も必要です。

また本連載のテーマでもありますが、SDGsの達成のためには、これまでのなりゆきでの対策に限界があることから、それを断ち切る「大胆な変革」も必要となります。景気対策としての地域通貨や特定の環境配慮の普及のための地域通貨は、今ある地域の産業構造の維持や延命に留まり、構造転換を先送りしてしまう可能性すらあります。これまでの地域社会の何を変えていくのか、どのような地域社会を目指すのかという将来目標を明確にして、それを目指す道具として地域通貨をデザインすることが望まれます。

そこで、地域社会の転換を目指し、「代替通貨」として地域通貨の活用を考えてはどうでしょうか。代替通貨を使うことで実現していく社会のキーワードは、リローカリゼーション、脱物資化・サービス主導、地域資源の循環的活用、内発的発展、住民の自律と自治、公正と包摂、自立共生の歓びのある暮らし、などでしょう。
代替通貨としての地域通貨がその目的を果たすためには、地域通貨の付与と還元のメニュー(何をすれば地域通貨がもらえ、何に地域通貨を使えるか)をデザインするだけでなく、地域通貨を活かす社会システムをデザインすることが必要となります。
例えば、コミュニティ・ビジネス(コミュニティによるコミュニティのためのビジネス)に対する出資や配当のために地域通貨を使うことで、地域住民がコミュニティ・ビジネスとの関係性を高め、地域ぐるみで地域経済を変えていく動きをつくることができるでしょう。

今回は、市場での交換手段に関連して、「地域通貨」を取り上げ、SDGsの観点から再評価を行いました。次回は、交換される中身に関連して、「サービサイジング・脱物質化」をとりあげます。

記事カテゴリー
SDGsの基礎知識