フェムテックとは? SDGs視点で考える新たなムーブメント|SDGsにまつわる重要キーワード解説

2022年07月13日

これまで女性が声を上げにくかった体の悩みや、生きづらさを解決する手段として注目される「フェムテック」。幅広いジャンルでサービスやプロダクトが登場しており、メディアで取り上げられることも多くなってきました。本記事では、SDGsの視点からフェムテックの意味や意義、そして取り組み事例などについて紹介します。

フェムテックの意味・定義とその範囲

フェムテック(Femtech)は、「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」の組み合わせから造られました。女性のライフステージにおける健康課題を、テクノロジーで解決するサービスやプロダクトを全体を指しています。テクノロジーというとアプリや電子機器などを想像しがちですが、吸水ショーツなどの衣料品であっても、製造過程で高度な技術を活用しているものも含まれます。月経周期を予測するアプリや月経カップ、ピルのオンライン診断、ウェアラブルな搾乳機、プレジャートイなど、その範囲は多岐にわたっています。

フェムテックとSDGsとの関わり

SDGsの中で、フェムテックに直結するのが、目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」です。

ジェンダーの平等は、SDGsの中でも、私たちが最も身近に感じやすい目標のひとつかもしれません。2021年に世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数」では、日本の順位は156か国中120位という結果でした。これは先進国の中では最低レベルです。

女性の人権問題は特に開発途上国で深刻ですが、日本では雇用や賃金格差、国会議員や管理職の割合の低さ、家事・育児の負担の大きさなどが問題になっています。

女性の活躍を推進するためには、まずは女性が働きやすい環境を整えることが大切です。フェムテックによって、生理痛や更年期などと上手に付き合うことができれば、女性が活躍する機会も広がるでしょう。

フェムテックでは女性が女性の目線で作っているものが多く、それだけに女性特有の諸問題に対して的確にこたえられるという期待が高まっています。たとえば、低用量ピルのオンライン診療や海外で進められている避妊アプリなどは、女性が主体的に行える避妊の選択肢を増やすことにつながります。更年期のカップル間のコミュニケーションをサポートするアプリは、男女が互いに理解し良好な関係を築くための助けとなるでしょう。

目標3の「すべての人に健康と福祉を」も、フェムテックと関連する目標です。

月経周期管理アプリや健康に関するウェアラブルデバイスなどの普及は、女性の健康に関する多くのデータを集めることにつながります。データ管理やプライバシー担保の課題もありますが、これまでタブー視されてきた分野のビッグデータを解析し、新たな医学的知見を生み出す可能性が期待されています。また、オンラインのコミュニケーションアプリや遠隔医療相談によって、医療機関を訪れることが難しい人や、医療機関へ行くことのハードルが高いと感じる人の治療の選択肢を増やすことができます。

「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」ことを誓っているように、SDGsの根底には多様性を尊重する考えがあります。

国連人口基金(UNFPA)が発表した「世界人口白書 2021」では、暴力を恐れたり、他人に決められたりすることなく、自分の身体に関することを自分自身で選択することと、その力を意味する「からだの自己決定権」に焦点があてられました。単なるサービスやプロダクトというだけではなく、誰もが自分らしく生きるための選択肢を広げてくれるフェムテックの普及は、SDGsの達成に向けても重要な役割を果たしてくれそうです。

フェムテックと企業

フェムテックについては、その開発に取り組む企業はもちろんですが、フェムテックを取り入れて女性の活躍をより推進しようとしたり、フェムテック開発元をサポートしようとする企業の動きなどがあります。いずれもSDGsの視点からの新たな動きであるととらえることができます。

フェムテックに取り組む企業

fermata株式会社
世界初のフェムテック専門オンラインストア「fermata store」の運営を行い、フェムテック関連商品の開発やコンサルティング事業も行っているのが「fermata株式会社」で、日本にフェムテック市場を創出した先駆け的な企業です。2019年の創業以降、「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」をビジョンに掲げ、急成長する日本・アジアのフェムテック市場を牽引してきました。昨年開催した「Femtech Fes!2021」では、国内外から150社以上のフェムテック製品が集まり話題となりました。今年も10月に開催を予定しています。

フェムテック専門オンラインストア「fermata store」

豊島株式会社
持続可能な素材開発を進める「豊島株式会社」から、有志の女性社員達が集まって立ち上げたフェムテックブランドが「Hogara(ホガラ)」です。"私たちが今ほしいもの"というコンセプトのもと、オーガニックコットンを使用した吸水ショーツを展開しています。豊島の廃棄食材を再活用するプロジェクト「フードテキスタイル(FOOD TEXTILE)」を通して、廃棄される予定だった赤かぶ、さくら、抹茶から抽出した染料でオーガニックコットンを染色した商品も展開しています。また商品1枚につき10円を、国際NGOプラン・インターナショナルによる「世界の女の子を応援する活動」に寄付するなど、SDGsと女性の目線からモノ作りを行っています。

株式会社MEDITA
2017年の創業以降、女性向けの基礎体温ウェアラブルデバイスや、健康管理アプリケーションの企画・開発など、「体温」を軸とした事業を展開しています。「研究×テクノロジー」で、世界中の誰もがどこにいても安全な医療を受けられ、医療と健康に隔たりのない世界を目指しています。集めたデータと独自技術を社会課題の解決につなげるため、製薬会社との治験の共有や、教育機関との共同研究も進めています。

フェムテックとダイバーシティ経営

女性が働きやすい環境作りや健康経営の一環として、フェムテックを取り入れる企業も増えています。

ポーラ
2029年に迎える創業100周年に向けて、新サスティナビリティ方針を打ち出しているポーラ。健康経営の一環として、さまざまな福利厚生や取り組みを導入しています。卵子凍結の保管初期費用や不妊治療費の一部補助、吸収ショーツやピル処方、生理関連の商品購入などの費用の一部補助、更年期の相談やオンラインカウンセリングサービス利用時の補助(性別問わず)などです。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進する法人向けサービス「Cradle」の導入によって、従業員とその家族を対象としたヘルスケアサポートも開始しています。

小田急電鉄
経営方針・戦略としてD&Iを掲げている小田電鉄では、フェムテックを活用して女性が安心して働ける環境づくりに取り組んでいます。従業員の9割を男性が占めていることから、まずは女性が特有の問題を気軽に相談して情報を得られるようにと、不妊治療や流産の相談窓口となる「ファミワン」や、「産婦人科オンライン」が導入されました。また駅や運転などの現場の監督者向けには、妊活や不妊に関する理解を深め職場運営に役立てられるよう、セミナーも実施しています。

フェムテック企業とESG

環境・社会・企業統治を重視したESG投資が拡大する中、フェムテック関連の銘柄への投資を考える動きも強まっているようです。

ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を掲げる花王では、2021年からフェムテック分野で女性に寄り添う活動を展開しています。健康情報サービス「ルナルナ」とコラボレーションし、肌状態や肌悩みに応じた美容アドバイスを提供するコンテンツの設置や、美と健康の視点から正しい知識を学べる「フェムケアスクール」を開設するなど、女性の人生をサポートする取り組みを進め、国内外で高いESG評価を得ています。

ESG投資については、こちらに詳しい解説記事がありますので、興味のある方はご覧ください。

フェムテック×SDGsの今後

フェムテックは、妊娠や更年期など女性のさまざまなライフステージと関わっています。それぞれの分野のニーズも多様で、育児やシニア向けのビジネス、健康や医療の分野など、既存の分野と連携してさらなる新しいビジネスを生み出していく可能性も秘めています。2021年より経済産業省がフェムテック事業への補助金制度をスタートさせたことや、福利厚生にフェムテックを取り入れる企業も増えていることなどからも、今後フェムテックの市場はさらに大きくなると予想されます。

現状ではフェムテックに明確な定義や業界の統一基準はありません。そのためどのように品質を保持していくのかは今後の課題です。またフェムテックには高価なものも多くあります。生理の貧困が社会問題となっていますが、置かれた状況によって利用できる人とできない人、情報を持っている人といない人を分断してしまう危険もあります。企業が福利厚生にフェムテックを取り入れる動きだけでなく、国や自治体も一体となって取り組んでいくことを考える必要がありそうです。

これまで、フェムテックとSDGsとの関係や、フェムテックに取り組む企業を紹介してきました。

フェムテックの広がりは、多様性を尊重する社会への一歩であるとともに、企業にとっても生産性の向上や新しいビジネスの創出につながります。フェムテックを単に女性のための製品やサービスとして捉えるのではなく、お互いが理解を深め、よい関係や社会を構築するためのムーブメントととして捉えれば、より多くの可能性が広がるでしょう。

なお、フェムテックについてマーケティング視点からの解説を「講談社C-station」で公開しています。ご興味のある方はぜひこちらもご覧ください。


フェムテックを含む女性向けのキャンペーンに有効なのが「女子マンガ」です。マンガやキャラクターを通じた表現によって、他にはない共感や説得力を持つコミュニケーションが可能になります。
「女子マンガ」に関する詳しい情報や事例は、以下でご案内している資料に詳しく掲載されています。ぜひご覧ください。

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