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スマートシティとは? 住民のウェルビーイングを前提とした都市づくりを考える|SDGsにまつわる重要キーワード解説

2022年08月31日

環境やエネルギー問題、少子高齢化、社会資本の老朽化、地方の過疎化などさまざまな課題が山積する中、持続可能な都市「スマートシティ」に注目が集まっています。課題解決による住民のウェルビーイングの向上、そして新たなビジネスとしての可能性も期待されています。本記事ではスマートシティの意味や必要性、SDGsとの関わり、事例などを紹介します。

スマートシティとは

スマートシティの意味・定義

スマートシティとは、ICTなどの新技術を駆使し、エネルギーや交通などのインフラが最適化された、住民にとって便利で快適な暮らしを実現する都市のことです。

内閣府によると「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義されています。

Society 5.0は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義され、日本が目指すべき社会として提唱されているものです。

スマートシティでは、デジタル化という要素に注目が集まりがちですが、その最大の目的はウェルビーイング(well-being)です。どうしたら新しい技術で人を幸せにできるか、という人間中心の視点で街づくりを進めることが大前提となっています。

ウェルビーイングについては、こちらの記事をご覧ください。

スマートシティの必要性

スマートシティの必要性が高まっている背景として、都市への人口集中があげられます。国際連合の調査によると、「2050年には世界人口の約3分の2の60億人以上が、都市の住人になる」と予想しています。人口の集中は環境汚染や交通渋滞、エネルギー消費量の増大、犯罪の増加などさまざまな問題を引き起こします。

これらの社会課題は今後も深刻化が予想されますが、一方で、IOTやビッグデータ、AIなどの技術は大きな変革を遂げており、コロナ禍ではコミュニケーションのデジタル化も加速したことで、スマートシティへの期待はさらに高まっています

またグローバル化した社会では常に課題が変化しており、従来のハードウェア中心の街づくりでは対応できなくなっているという側面もあります。複雑化している社会課題を解決するために、新技術を活用し、ニーズの変化に柔軟に対応できるスマートシティの必要性が増しているのです。

スマートシティ構想とこれまでの課程

テクノロジーを暮らしやすい社会づくりに活かそう、という動きは以前からありましたが、スマートシティという言葉が浸透し始めたのは2010年頃からです。当初はエネルギー消費の効率化や、土石流情報、水位情報といった減災情報など、特定の分野に特化した取り組みが中心でした。

近年ではエネルギーや環境に関する課題解決は引き続き重要なテーマであるものの、そこに暮らす人々のウェルビーイングがよりフォーカスされるようになってきました。海外では「バーチャル・シンガポール」や「ドバイ・スマート・シティ・イニシアチブ」ように国家を挙げてスマートシティに取り組む事例も増えています。

日本では、スマートシティの取り組みを官民連携で加速するため、内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省を中心に、企業、大学・研究機関、地方公共団体、関係府省等を会員とする「スマートシティ官民連携プラットフォーム」が2019年に設立されました。

2021年に公開された「スマートシティガイドブック」では、スマートシティの意義や必要性、進め方などについてまとめられ、「市民中心主義」「ビジョン・課題フォーカス」「分野間・都市間連帯の重視」の3つの基本理念が示されています。さらに、ウェルビーイングの向上のため、分野や自治体を越えた市民主体の取り組みが必要であること、新技術ありきではなく課題解決やビジョンの実現を重視することを掲げています。

また内閣府は「スマートシティ・タスクフォース」というロードマップを提示し、2025年に100都市のスマートシティの実装化を目標として掲げています。

スマートシティとスーパーシティの違い

ICTやデータ活用によって、環境、エネルギー、交通、教育、医療といった複数の分野を横断する取り組みが増えています。しかし、住民目線で生活分野全般にわたって先端技術を暮らしに実装する「まるごと未来都市」は、未だ世界でも実現していません。日本でも、各分野の要素技術は揃っていても分野を超えて活かす場がなく、法や規制による制約もあります。

この状況をふまえ内閣府が打ち出している施策が「スーパーシティ」構想です。スーパーシティは、「生活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供」「大胆な規制改革」「複数分野間でのデータ連携」をポイントとして掲げ、住民が参画する住民目線の未来社会を目指すものです。2030年頃に実現されることを目指し、内閣府が提唱しています。

スマートシティでは、取り組みが個別分野や個別の最先端技術の実証などに留まっているのに対し、スーパーシティは初めから分野を超えた連帯基盤を構築し、生活全般にまたがった課題解決を目指しています。スーパーシティではより住民目線が強く打ち出されているともいえるでしょう。

2020年9月に、スーパーシティの実現に必要な要件を盛り込んだ「改正国家戦略特別区域法」が施行され、2022年3月には、茨城県つくば市と大阪府大阪市の2都市がスーパーシティ型国家戦略特別区域に選ばれています。

スマートシティ リファレンスアーキテクチャとは

リファレンスアーキテクチャとは、ものごとの構造や関係性を表す設計図となるものです。スマートシティ リファレンスアーキテクチャは、内閣府がまとめたスマートシティに取り組む際の指針となる設計図です。

スマートシティは幅広い分野をまたぐ取り組みで、他の自治体や行政、民間企業との連帯も不可欠です。しかし、それぞれの取り組みは分野や地域で個別に実装されていることが多いため、広い範囲での利便性の向上につながりにくく、持続しにくいといった課題があります。システム構築のための新たな開発コストもかさんでしまいます。

そこで、スマートシティにどのように取り組んでいけばいいか、産官学共通の指針となるべく作られたのが、スマートシティ リファレンスアーキテクチャです。この共通指針により、サービスの連携や成果の共有を容易にし、成功事例の展開や新たなビジネスモデルの創出を目指しています。

スマートシティの実現に必要な構成要素や実装指針を体系的に整理した「アーキテクチャホワイトペーパー」、アーキテクチャに基づき地域課題を解決する具体的な手順で活用方法を解説した「アーキテクチャ導入ガイドブック」が作成され、内閣府HP上で公開されています。

スマートシティとSDGs

スマートシティとSDGsのゴール

スマートシティは、そこで生活する誰ひとり取り残すことなく、経済的にも健康的にも文化的にも暮らしやすい持続可能な都市を目指すものであり、人間中心であることに重きを置いている点で、SDGsの理念と重なります。スマートシティは、人間中心を掲げるSociety 5.0を推進するものであると同時に、SDGs達成のための手段ともいえるでしょう。

SDGsでは、目標11「住み続けられるまちづくりを」で、持続可能なまちづくりに言及していますが、日本では2018年から「SDGs未来都市」事業が進められています。内閣府がSDGsの達成に向けた取り組みを積極的に進める自治体を認証する制度で、環境・社会・経済という3つの側面からSDGsの17の目標に紐づけられて評価されます。デジタル技術を駆使することで環境・経済・社会の好循環を生み出すスマートシティの実現は、SDGsと深いつながりがあることがわかります。

それでは、SDGsにつながるテーマを分野別に見ていきましょう。

医療・ヘルスケア

この分野は、目標3「すべての人に健康と福祉を」と関わります。スマートシティは、そこに住むすべての人が健康に暮らせる場所であるべきという理念のもと、医療関連のサービスや健康を促進するためのさまざまな取り組みが行われます。

ITを活用したオンライン診療や相談窓口の設置はもちろん、健康に関するデータを取得・活用することで個人のヘルスケア向上につなげます。近年では電化製品の使用状況から健康状態の変化を検知して、高齢者の介助サービスに役立てる取り組みもあるようです。パンデミックに対応できるインフラの構築や、マスクなどの医療用品やワクチンなどを迅速に流通させるためのインフラも必要となってきます。

環境・エネルギー

目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」と目標13「気候変動に具体的な対策を」に関わる分野です。環境に配慮した街づくりを進めるためには、エネルギーの制御・効率化とクリーンエネルギー発電がポイントとなります。

太陽光パネルや風力発電装置によってクリーンエネルギー発電を進めると同時に、時間や曜日などで電源を分散化させたり、蓄電システムを導入することで、エネルギーを安定的に、効率よく供給できるようにすることが必要です。公園の設置や壁面緑化、カーシェアリングなどによる二酸化炭素排出の抑制も大切です。

またエネルギーの見える化は、住民の参加意識を高め省エネにつながります。住宅や商業施設など街全体のエネルギー使用状況を管理する仕組みがあれば、効果的な省エネのための情報を配信することができます。

防災

防災は、目標11「住み続けられるまちづくりを」に関わります。
近年、ICTを使った防災・減災に取り組む自治体が増えています。たとえば、降雨量のデータを収集し、AI分析によって今後の河川氾濫を予測したり、遠隔カメラによる情報から洪水や冠水などを予測し、的確な避難指示につなげたりする試みです。住民がSNSで発信した情報や画像などのデータをAIで解析して、スピーディーな状況把握や危機分析に役立てる動きも高まっています。

交通・輸送・通信

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」と関わる分野です。
道路、交通網、情報通信などのインフラは、人々の生活と産業を支えるために必要不可欠です。街中に設置されたカメラや IoTデバイスなどから得られるデータを、渋滞解消や事故防止、安全な都市計画設計などに活用する事例が増えています。自動運転ロボットやドローン技術を活用した自動配送サービスも、実用化が進められています。

地域活性化

この分野は、目標8「働きがいも経済成長も」や、官民が連帯して取り組んでいくという点で目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」と関わります。

スマートシティの取り組みは、地域活性化を推進する要素でもあります。たとえば、ICT活用教育による学力の向上で、教育面のメリットから定住を選ぶ家庭が増え、児童が増加したケースがあります。ビッグデータの活用によって健康が推進されれば、健康寿命が延び高齢者の就業率アップや医療費の負担軽減となり、ひいては地域活性化につながることが期待できます。テレワークを活用した子育て世代の雇用創出が進めば、新たな所得が生まれるでしょう。ICTを活用した農作物の安定生産や高品質化も、地域活性化のために期待される分野です。

このようなさまざまな取り組みは、その地域の活性化だけにとどまらず、これを事業モデルとして他地域に展開することも可能になるでしょう。

スマートシティの課題

スマートシティでは住民目線の取り組みとともに、「住民自身の参画」が欠かせません。そこでは、最先端の技術を取り入れることに積極的な若い世代だけでなく、高齢者が受け入れてくれるかという課題が発生します。スマートシティの運営に、高齢者を含むさまざまな住民が積極的に関わってくれるような働きかけや仕組みが必要です。

また、官民の膨大なデータを活用する上では、データの利用と保護のバランスが課題となります。万一ネットワークに問題が発生した場合は、大変な事態に発展する可能性があることも考慮しなければなりません。ガイドラインを作成し、データの取り扱いやリスクマネジメントのルールを明確にしていくことが必須です。さらには、スマートシティを各地に定着させるために、資金面で持続性を保てるかどうかも今後の課題です。

スマートシティの事例

海外の事例

アムステルダム

オランダのアムステルダムではEUの他の都市に先立ち、2009年から「アムステルダム・スマートシティー・プログラム」を開始しています。アムステルダムは2025年までに1990年比で40%のCO2 排出削減を目標に掲げており、このプログラムでは、スマートグリッド等の技術を活用したエネルギー消費やCO2排出量の削減を中心に、生活・仕事・交通・公共施設・オープンデータの5つのテーマに沿ったプロジェクトを実施しています。
エネルギー使用量は一般家庭や商業施設に設置されたスマートメータによって見える化されています。オープンデータ地図上では、地域ごとのエネルギー使用量とともに、都市インフラの状況など様々な情報も公開されています。また、こうして見える化された現状と課題は、政策立案にも活用されています。

シンガポール

スマートシティインデックス」のランキングで3年連続1位を獲得しているのがシンガポールです。少子高齢化や経済成長の鈍化など多くの課題を抱えるシンガポールでは、国をあげてスマート国家の実現を目指すため、2014年に「スマート・ネーション・シンガポール」を発表しています。
IoTを推進する「国家センサーネットワーク設置(SNSP)」や、「デジタル決済の普及」、「国家デジタル身分証(NDI)システム構築」を優先テーマとし、生活、ビジネス、行政などあらゆる場面でICT技術を活用したデジタル化が進められています。

国内の事例(自治体)

北海道札幌市

いち早くICTの可能性に着目してまちづくりを進めてきた札幌市では、「札幌市 ICT 活用プラットフォーム」によって、誰でもオープンデータに触れることができる環境を提供しています。データの活用事例などもウェブサイト上のグラフや地図によって可視化されています。
市民参加型の取り組みとしては、スマートフォンアプリで計測された歩数に応じて公共交通機関で使える「健幸ポイント」を付与するプロジェクトを実施し、「公共交通+歩行」への行動変容を促すとともに、取得したビッグデータを街づくりや健康サービスに活用しています。

国内の事例(自治体+企業)

群馬県前橋市

独自の地域IDの実装を目指している前橋市では、2022年10月に「まえばしID」と、それを利用した「デジタル市民権」の発行を予定しています。まえばしIDは、マイナンバーカードによる本人確認を実施した上で、スマートフォン上に認定証明書を発行する仕組みです。このまえばしIDをキーに、行政が保有するデータと民間企業が保有するデータを連携して新しいサービスを生み出そうとしています。
デジタル市民権は、住民票がない人も対象に多様な意見を集め、サービスの開発に活用していこうとするものです。地域IDを活用し、官民が一体となって街づくりに取り組んでいる事例です。

スマートシティの未来

グローバル化により、国や地域を越えて人もモノもつながる時代になりましたが、それぞれが抱える社会課題や価値観も多様化しています。ICTによって地域の最適化を図るスマートシティは、多様化するウェルビーイングを叶える場所として、ますます重要性を増してくるでしょう。スマートシティ市場は広がりを続けており、野村総合研究所「ITナビゲーター2022年版」では、2020年は7849億円だった市場が、2027年には1兆4412億円に成長すると予測しています。

また世界経済フォーラムがG20と連帯して主導するスマートシティプロジェクト「GSCA(G20 Global Smart Cities Alliancef)」は、日本が主導するスマートシティ連帯プロジェクトです。GSCAは官民とは異なる俯瞰的な視点で、スマートシティの実装に必要な5つのモデルポリシーを提供しています。日本からは25の都市が参画しており、世界と連帯した今後の取り組みが注目されています。

スマートシティを知るための本

Smart City 5.0 地方創生を加速する都市OS」 
アクセンチュア=海老原 城一(著)、中村彰二朗(著)/インプレス

会津若松市のスマートシティプロジェクトについて、コンセプトや具体的な取り組みを紹介しています。地方都市が抱える課題をどのように解決していくのか、ひとつの事例として参考になります。

詳しくはこちら>>
「スマートシティ3.0 (日経ムック)」 
KPMGコンサルティング(監修)/日経BP 日本経済新聞出版

スマートシティの事例や最新トレンドなどが多く掲載されています。さまざまな分野のプレーヤーが語る言葉から、スマートシティが目指す姿やその可能性について考えることができます。

詳しくはこちら>>

未来都市というと画一的なまちづくりをイメージしてしまいがちですが、デジタル技術による取り組みは地域の特性やニーズに合わせた街づくりを可能にします。幅広い分野をまたぐスマートシティの推進は、分野間また地域間の連帯によって新たなサービスやビジネスが生まれる可能性もありますし、次の課題が見つかることもあるはずです。
私たち個人としては、スマートシティを1人ひとりのウェルビーイングと捉え、参加や課題解決への意識を持つことが求められるでしょう

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