さまざまな側面から、目標達成に期待される「SDGs万博」|大阪・関西万博とSDGs【第4回】

2023年08月22日

「SDGs万博」とも呼ばれる「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」を、SDGsの視点から紹介する連載の4回目。ジャーナリストの稲葉茂勝さんが、著書『2025年大阪・関西万博 SDGsガイドブック』(文研出版)、『万国博覧会 知られざる歴史とSDGsとのつながり』(ミネルヴァ書房)をもとに、今回は「日本のSDGsの現状と『SDGs万博』開催の意義」について解説します。

MDGsからSDGsへ。目標達成に貢献を期待される「大阪・関西万博」

2025年に開催される「大阪・関西万博」は、「SDGs万博」とも呼ばれています。そもそもSDGsは、英語の Sustainable Development Goalsの頭文字をとって略したもの。「持続可能な開発目標」と訳します。最期の「s」は、Goal(目標)が複数あることを示す複数形の「s」です。このあたりまでは、今や常識でしょうか?
しかし、17個のゴール(目標)は知っていても、「ターゲット」と呼ばれる具体的な目標が、目標ごとに10個ずつ、合計169個掲げられていることは? さらに、ターゲットには1.1/3.4のように数字の枝番がついたものと、1.a/3.bのようにアルファベットの枝番に分かれていることは、多くの人が知りません。また、SDGsの前にMDGsがあったことはご存知でしょうか? 

枝番が数字のターゲットは、その目標を具体的にあらわしたものです。一方、枝番がアルファベットのものは、目標達成の方法をより具体化したものといわれています。

MDGsは、英語のMillennium Development Goalsの頭文字をとって略したもの。「ミレニアム開発目標」と訳します。1990年代に開催された主要な国際会議・サミットで採択された「国際開発目標」と、2000年に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」とを統合して誕生。2015年までを達成期限とする8個の国際目標(*1)が定められました。

そして2015年、SDGsはMDGsに代わる国際社会の新しい共通目標(次期目標)として、国連サミットで採択されました。その目標達成に、2025年に開催される「大阪・関西万博」は寄与すると期待されているのです。

*1 目標1「極度の貧困と飢餓の撲滅」、目標2「普遍的な初等教育の達成」、目標3「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」、目標4「乳幼児死亡率の削減」、目標5「妊産婦の健康の改善」、目標6「HIV/エイズ、マラリア及びその他の疫病の蔓延防止」、目標7「環境の持続可能性の確保」、目標8「開発のためのグローバル・パートナーシップの推進」

日本はSDGs後進国。しかし認知率は9割超

そんな大阪・関西万博の開催を控える日本ですが、SDGsにおいては先進国とは言えない現状があります。

国連や研究機関などの統計資料をもとに、各国のSDGsの取り組みを100点満点で点数化した「Sustainable Development Report 2022」によれば、2022年の「世界のSDGs達成度ランキング」では、第1位がフィンランド、2位デンマーク、3位スウェーデン、4位ノルウェーと、北欧の国が続き、次いで、オーストリア、ドイツなどヨーロッパの国でした。アメリカは41位、中国は56位、最下位は、南スーダンとなりました。

日本の順位は、調査した163ヵ国中19位で、前年に比べて1つ後退。相変わらず「ジェンダー平等」や「責任ある消費・生産」「気候変動対策」「パートナーシップ」に課題があると指摘されました。一方、目標9「新しい技術とインフラ」の達成度は、上がりました。

SDGsに取り組む日本の進捗状況に比べ、日本におけるSDGsの認知率は上昇傾向にあるといえます。電通が2023年2月、全国10~70代の男女計1400名を対象に第6回「SDGsに関する生活者調査」を行なった結果、SDGsを認知している人の割合が、全体で91.6%と、前回の86.0%より5ポイント以上向上しました。

また、「内容まで含めて知っている」と回答した人は40.4%で、2018年の第1回調査の3.6%から約11倍に急増。「内容まで含めて知っている」と回答した人の性年代別内訳では、女性10代(72.4%)、男性10代(58.5%)の順に割合が高く、これまで高かったビジネス層や学生層、高齢者層だけでなく、若い人たちにも知られてきたことがわかりました。

万博の持つ目的と関係する、SDGs万博

大阪・関西万博がSDGsの目標達成に期待される背景には、万博が持つ目的も関係しています。

国際博覧会条約の第1条には、万博の目的について「公衆の教育」と「将来の展望」であると記されています。これは、地球規模の問題解決のために、万博が、公衆に対し知識や技術などを教育する場であって、地球規模の展望を見出す場だということです。

21世紀初の万博となった2005年の「愛・地球博」は、「人類共通の課題」全体の解決策を展望する場とされましたが、それはなんとSDGsが発表される10年も前のことです。そして、SDGsがつくられた2年後の2017年にはアスタナ万博でSDGsの目標7(*2)などが、2015年ミラノ万博でSDGsの目標1・2・12(*3)、2021年ドバイ万博ではSDGs目標6・7・9(*4)が、教育・展望されました。

このように21世紀の万博は、SDGsの目標に関連してきたのです。その流れを大阪・関西万博が継承することは、当然と言えるかもしれません。

*2 SDGs:目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
*3 SDGs:目標1「貧困をなくそう」 2「飢餓をゼロに」 12「つくる責任つかう責任」
*4 SDGs:目標6「安全な水とトイレを世界中に」 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」

ドバイ万博から大阪・関西万博へ。SDGsのラストスパート

砂漠の国で開催された「ドバイ万博」(2021年開催)でもSDGsの目標にからめた展示が行われましたが、その次の大阪・関西万博の開催は、ちょうどSDGsの目標達成期限とされる2030年の5年前、2025年に当たります。日本政府は「大阪・関西万博」でSDGsのラストスパートをかけることを期待しているといいます。

いま、世界中でSDGs目標達成のための取り組みが無数に行なわれています。しかし、このままでは到底達成できません。地球温暖化も収まりません。
さらに今のパンデミックは、WHOが2023年5月、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を終了すると発表しましたが、まだ完全には、収束していません。ロシア・ウクライナの戦争は収まるどころか拡大しています。

SDGsの目標達成の可能性を少しでも高めるためには、あらゆる取り組みの規模を拡大し、加速しなければなりません。そんななかで開催される2025年の大阪・関西万博の意義は、ますます高まっています。

SDGsにも寄与するSociety5.0と万博

Society5.0とは、人類の歴史区分の最新の社会のことです。日本政府は人類の歴史区分を「Society1(狩猟採集社会)」「Society 2(農耕社会)」「Society3(工業社会)」「Society4(情報社会)」とし、情報社会の次にくる社会を「Society5(名前がまだない)」と表しています。

Society5に名前がまだない理由は、日本がこれから目指す社会をいうにふさわしい日本語がないからです。それもそのはず、Society5がどういう社会か複雑すぎて、一言で表すことができません。内閣府では、Society5を「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義しています。

Society5.0は、SDGsの目標達成のための環境であり、条件でもあると言えます。なぜなら、Society5.0では再生エネルギーの開発やAIによる使用電力の最適化、省電力化などが可能になり、それは、そのままSDGsの目標達成に貢献することになるからです。そのなかで大阪・関西万博は、Society5.0に向けた「実証の場」として位置付けられています。

次回この連載の最終回は、そうした大阪・関西万博を成功させるために企業、個人、地域などが、何ができるかをお話しします。


●関連リンク
2025年大阪・関西万博 SDGsガイドブック(文研出版)
子ども大学くにたち
万国博覧会 知られざる歴史とSDGsとのつながり(ミネルヴァ書房)

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SDGsの基礎知識