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「ダイバーシティ」の本質とダイバーシティインデックス──ダイバーシティ経営【第1回】

2021年12月10日

さまざまな人材を活用し、よりよい社会や環境を目指す昨今の状況から上場企業のコーポレート・ガバナンスが改訂され、ダイバーシティが経営の最重要課題となっています。
しかし一方で、ダイバーシティ(多様性)には誤解されている部分も多いといわれています。ダイバーシティの第一人者で、国内外での講演や政府の委員会なども務める、株式会社イー・ウーマンの佐々木かをりさんが、ダイバーシティの本質について解説します。

ダイバーシティは「女性活躍」だけではない

「ダイバーシティ経営に取り組まない企業に未来はない」と、私はいつもお伝えしています。その理由を詳しく解説します。

「ダイバーシティ」というと、「女性活躍」「女性の社員数を増やす」の文脈で語られることが多くありますが、正確にはそれだけではありません。女性活躍は大変重要ですから進めなくてはなりませんし、それぞれの人の人権を守ることも重要課題です。そのうえで、なぜ組織や社会がダイバーシティを必要とするのかを考えることが大切です。

私はダイバーシティを「多様な視点を集めてイノベーションを起こす」と定義しています。つまりダイバーシティとは、視点の多様性を増やすことで知恵を集め、イノベーションを起こすことなのです。

たとえば、日本には昔から「三人寄れば文殊の知恵」という言葉があります。いろいろな知恵が集まることで多様なアイデアが生まれ、よりよい社会になるというこの言葉は、まさに「ダイバーシティ」の本質を表しているといえるでしょう。

ダイバーシティ経営に必要な「4つのキーワード」

ダイバーシティは、組織に多様性をもたらします。多様な属性の人が集まっている組織は、それぞれが違ったものの見方・とらえ方ができるため、健全かつ安全で強い組織になります。ですから、女性の割合が何%になったら目標達成ということではありません。ダイバーシティには、その先があるのです。

企業の持続的発展のために、これまで女性の起用がなかったポジションに女性を配属したり、積極的に女性を採用したりすることは必要不可欠ですが、性別だけでなく、年齢や国籍、経歴の多様なメンバーをそろえ、メンバー本来のユニークなものの見方やとらえ方を引き出して、いままで見落としてきた視点を加えて議論する、多様性を育てることが重要なのです。

では、それらを踏まえて、ダイバーシティを通じて、イノベーションを起こすためにはどのようにすればいいのでしょうか?
ダイバーシティ経営に必要な「4つのキーワード」をご紹介します。


1 ダイバーシティ(Diversity=多様性)

ダイバーシティは、まず組織に多様な人を採用するところから始まります。そして、昇進などの際も、多様な人を選ぶことです。多様な属性の人が集まっている組織は、それぞれが違ったものの見方・とらえ方ができるため、健全かつ安全で強い組織になります。

日本では今でも「ダイバーシティ=女性活用」と思っている企業もありますが、ただ女性を増やすことだけが「ダイバーシティ」ではありません。前述の通り、積極的に女性を採用することは必要不可欠ですが、性別だけでなく、年齢や国籍、経歴の多様なメンバーで組織を作ることが重要なのです。


2 エクイティ(Equity=公平)

エクイティはイクオリティ(Equality)と似ていますが、まったく違う概念です。イクオリティは平等ですが、エクイティは公平を意味します。

たとえば、ステージの前に高い塀のあるコンサート会場があるとします。「誰もがコンサート会場に入れる」とするのがイクオリティですが、背の高い人はステージが良く見え、背の低い人は壁が邪魔でステージが見えないという「不公平」が生じます。そこで、コンサート会場に入る時に、背の低い人には踏み台を用意し、全員の目線が同じ高さになるようにしていくことがエクイティです。

「我が社は男女の差別なく、優秀な人が上にあがれる」というのは差別のない平等な企業に見えますが、企業が求める「優秀」さの基準によっては公平さに差が生じる可能性があります。エクイティがないのです。

もしその組織が、急な残業や出張にも対応できる社員が対応案件が多くて優秀と評価されていた場合、子どものお迎えで時短勤務をしたり、介護で有給を取ったりする社員は、対応案件が少ないことから優秀ではないと評価され昇格できません。「優秀な社員はみな昇格できる」は平等に聞こえるけれど、公平ではないのです。

つまり合計ではなく、時間単位の成果を評価し、時短勤務のAさんがいちばん対応数が多かったら、その人を評価する。また、時短の人たちが情報面で不利にならないように同じ情報を学べるような仕組みを整える。それらが「エクイティ」の考え方なのです。


3 インクルージョン(Inclusion=包含)

多様な人材を採用しても、ひとりひとりの考え方を組織の中で活かすことができていなければイノベーションは起きません。メンバー各自の固有なものの見方やとらえ方を引き出して、目に見えない視点の多様性を育てていくことが重要です。

インクルードは含み入れる、仲間に入れるという意味です。いろいろな人の声を聞いて取り入れる仕組みがある、アイデアが出た時に自由に発言できる、商品開発や業務改革に活かせているなど、多様な声を受け入れる風土が必要です。そのためには、耳を傾ける環境と安心して発言できる仕組みが必要不可欠です。


4 ガバナンス&イノベーション(Governance & Innovation=内部統制と革新)

4つ目の「ガバナンス&イノベーション」は、上記の成果とも言えるでしょう。

ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンができている企業は、ガバナンス(内部統制)が高まり、健全に経営されるようになります。

また、社内で常に活発にディスカッション(意見交換・議論)が行われるような環境になれば、いろいろなところでイノベーションが起きるはずです。商品開発、仕事の仕方、オフィスの在り方、働き方などにもあらゆる知恵(視点)が活かされ、よりよい企業へと成長・発展していく。商品が売れ、よい人材が入ってきて、投資も集まる。ますますよい循環が生まれます。

なお、その実現のためには、重要な意思決定をする役員会においても「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン」の視点が必要です。

インデックス(指標)でダイバーシティを可視化

ダイバーシティ経営は、どんなに女性管理職の人数を増やしてもそれだけでは足りません。経営者や人事が努力しても、会社全体の風土が変わらなければ、イノベーションは起きないからです。

そこで、人数を増やすという数値目標だけでなく、「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・ガバナンス&イノベーション」の4つの角度から自社のダイバーシティの進捗や課題を可視化するために、企業が役員や社員全員で参加する「ダイバーシティインデックス」が誕生し、年に1度実施されています。国内外のダイバーシティ第一人者によって4年前に作られ、投資家などからも注目を集め始めています。

ダイバーシティインデックスでは、企業が取り組んでいるダイバーシティ経営を、どう可視化したら投資家を含めるステークホルダーにわかりやすく伝えられるのか。ESG投資家にとって重要なSとG(S=サステナビリティ、G=ガバナンス)をどう数値化したら、自社の取り組みの進度を明確にできるのかなどを調査し、偏差値や報告書で知ることができます。

このプログラムは、次の3つのセクションから構成されています。

①企業サーベイ(企業の意識調査):
ダイバーシティ推進のための制度整備や企業の経営意識について組織(担当者)が回答

②個人サーベイ(個人の認識調査)
ダイバーシティに対する認識について個人が回答(無記名)

③個人テストおよびセルフラーニング
ジェンダー・年齢・人種・障がいなど、ダイバーシティ領域の視点のテストに個人が回答

③個人テストは、終了時に自身の得点と社内での順位が表示されます。また、終了時にすべての問題と回答についての出典データや解説を読むことができますので、ダイバーシティ経営に関する年に1度のセルフラーニングの機会ともなります。

さらに、報告書は4つの柱(前述した4つのキーワード)で分析されており、各参加企業のCEOとのダイアログ(対話)の時間がもたれます。ディスカッションを通じて、CEOも自社のダイバーシティの現在地を知り、より理解を深めることができるため、経営に直結する指標を得る機会となります。

持続可能な、そして成長して社会に貢献する企業にとって「ダイバーシティ経営は重要な柱」です。未来のために、ぜひ多くの企業の方に「ダイバーシティ経営」に取り組んでもらえたらと思います。

なお、次回、2022年秋冬実施の「第5回ダイバーシティインデックス」の参加に向けては、企業向け説明会もありますので、ダイバーシティ経営に取り組む企業はぜひ参加ほしいと思います。これから取り組み始める企業も含め、人間ドックに入るように、毎年1度点検して数値化し、他社とも比較しながら経営の指標とする企業がさらに増えることを期待しています。


●ダイバーシティインデックスの詳細は、こちら

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