日本のダイバーシティ経営の現状と課題──ダイバーシティ経営【第2回】

2022年01月18日

ダイバーシティ経営への注目度が高まるなか、日本企業にはどのような課題があるのでしょうか?
ダイバーシティの第一人者で、国内外での講演や政府の委員会なども務める、株式会社イー・ウーマンの佐々木かをりさんが、企業の実例も交えながら、日本のダイバーシティ経営の現状と課題について解説します。

世界から遅れている日本のダイバーシティ

ダイバーシティを語る時に、企業の「女性活用」は避けて通れない問題です。

日本では、2016年に「女性活躍推進法」が施行されて丸5年となりますが、これまでにどれくらい女性が働きやすい環境が整備されたのでしょうか。

2021年10月に発足した岸田内閣では、全閣僚20人のうち、女性閣僚はG7中最も少ない3人でした。かつて安倍政権は、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする「202030(にいまる・にいまる・さんまる)」を掲げていましたが、2021年版の男女共同参画白書によれば、企業や官公庁の管理職に占める女性の割合はわずか13.3%にとどまっています。

また、世界経済フォーラムが2006年から毎年発表している「ジェンダー・ギャップ指数」(国際機関が発表するデータを基に男女格差の度合いを指数化した、女性活躍の通知表ともいえる指標)を見ると、日本は2015年の101位からほぼ毎年順位を落とし、2021年は156ヵ国中120位、主要7ヵ国(G7)の中で最低という順位でした。

2022年4月にスタートするコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)の改正では、サステナビリティへの対応やダイバーシティの確保がより求められ、特にダイバーシティに関しては従来の女性活躍だけでなく国際性や職歴、年齢の多様性も盛り込まれています。しかし、まだまだ世界標準とは大きな隔たりがあります。

原因はアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)

なぜ日本は、ダイバーシティ対応に遅れているのでしょうか。

これは、「男性優位」のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が、根強く存在していることが大きな原因です。

無意識に偏見を持ってしまうことは自然なことで、決してなくなることではありません。だからこそ、無意識を"意識"に変えることを日々心掛け、偏見によって相手に不利益を与えないように行動することが大切です。

たとえば企業は、入社試験の上位者を採用するのではなく、男性を多く採用しており、役職者に昇進するのも男性が多い。教育現場も、教師の人数は女性が多い小学校も校長は男性であったり、「PTAの会長は男性、副会長は女性」と決まっている学校があるなど、さまざまなところに、無意識から生まれた差別が存在しているのです。

こうした現状を変えていくのは簡単ではありませんし、たくさんの課題を解決する必要がありますが、私は自分の役割として、経済界の変化に力を入れています。それはつまり、企業経営、企業組織を変えていく、ことです。

日常の中で身につけてしまった「無意識の偏見」

では、企業の中で女性管理職が少ない現状を、どのように考え、解決するのか。もしかすると、20〜30代女性の中には、「自分は男女差別されていない」「私は実力でポジションを勝ち取るので、ポジションを取れない人は能力不足」だと考え、男女格差を感じていないし、女性を理由に優遇されるのは嫌だと考える人も多いかもしれません。

しかし、男女雇用機会均等法が施行されてから35年が経過しているのだから、本当に平等・公平なら、男女が半々、各役職にいるはずなのですが、いないのはなぜでしょうか。どんなチャンスでも与えられたら、女性たちは、それらを使って力を発揮していくのが大切なのです。

「ジェンダー・ギャップ指数」や企業や官公庁の管理職に占める女性比率の数値などをみると、明らかに日本は何らかの偏りがあることがわかります。男性が、男性だからという理由で、これまで長年の間、優遇されてきたからです。そして日常の中で、「男性の方が優秀」という無意識の偏見をすべての人が身につけてしまったからでもあります。

ダイバーシティ経営の優秀事例

こうしたなか、多様性が経営も健全にし、働き手にとっても環境が良くなり、成長することを知る経営者は「ダイバーシティ経営」を実践しています。自社の経営に活かしている企業は、着実に成長し続けています。実例をご紹介しましょう。

1)小林製薬株式会社

「あったらいいなをカタチにする」をブランドスローガンに掲げ、医薬品、芳香剤、オーラルケア、スキンケア、栄養補助食品(サプリメント)、日用雑貨品などの分野において、ユニークで価値あるさまざまな製品を提供している小林製薬は、ダイバーシティ経営を実践してきた企業です。

小林製薬では毎月1回、全社員が新しい商品アイデアを提案する「アイデア提案制度」が30年以上前からあり、社員から年に5万件以上の提案が上がってくるのです。同社の商品はインパクトのあるネーミングも特徴ですが、これも広告代理店や専門の部署ではなく、商品のアイデアを提案した社員がそれぞれ考えた商品名だといいます。

ダイバーシティ経営のメリットのひとつに「多様な視点が集まり、イノベーションが生まれ、より良い商品が生まれる」ということがあります。社長も含めて全社員が毎月提案する仕組みとカルチャーのある小林製薬は、まさにダイバーシティの実践企業といえるでしょう。

このように、長年にわたり自然とダイバーシティ視点を取り入れてきた同社は、20年以上増益を続けており、これは日本の全企業の中でも数社しかない快挙です。ダイバーシティを活かし、インクルージョン、イノベーションまで実現しているよいお手本とみて注目しています。


2)日本電気株式会社(NEC)

2021年4月に森田隆之氏が新社長に就任したNECは、単独でも従業員数が2万人を超え、連結では11万人を超える大企業です。グローバル経営をされていますのでダイバーシティ経営は重要です。その中で私が注目しているのは、中途採用のあり方です。幹部クラスに外部から優秀な人財をどんどん採用していますが、特に中枢にも女性を多く起用している点です。

NECでは財務、人事、営業など、経営の基軸になる部署に女性幹部を採用し、未来に向かってのカルチャー変革に力を入れていることに、私は同社のダイバーシティ経営の「本気さ」を感じています。「女性管理職」は、その数だけでなく、「どこに」配属されているかも重要な指標になると思っています。

SDGsが注目され、企業が持続的に成長・発展していくために、環境、人財・社会、ガバナンス(ESG)が経営の中心となってきました。経営者はダイバーシティ(多様性のある)組織を作り、働き手(人材)は、自らの最高の力を発揮して貢献する。この両方が存在することがダイバーシティ経営の目的であり、重要なポイントです。

多様な人財がそれぞれの能力を最大限に発揮できる「ダイバーシティ経営」が、いま、必要なのです。

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SDGsと経営