2022年02月17日
多様性を企業価値へと昇華する「ダイバーシティ経営」に力を入れる企業が増えています。一方で、「どう取り組んだらよいかわからない」と、悩まれている企業も多いのではないでしょうか。今回は、ダイバーシティ経営に取り組む際の注意点と、それを推進するメリットについて、ダイバーシティの第一人者、株式会社イー・ウーマンの佐々木かをりさんが解説します。
「ダイバーシティ経営に取り組みたい」と思っているだけでは何も進みません。まずは、その体制を取り入れたら会社がどうなるかを、なるべく具体的に思い浮かべてみましょう。ダイバーシティ経営に取り組む際に、「何のためにダイバーシティ経営をするのか」というビジョンをはっきりさせることが非常に重要です。
私は「ビジョン(実現したい未来を映像として描き見ること)は燃料、目標はものさし」と言っています。ワクワクする映像を思い浮かべてこそ、そこに到達しようとする意欲が継続的に湧き出るのです。ダイバーシティ経営のビジョンはみんなで会社をよくすることです。利益を出し、企業価値を高め、良い会社にすることです。その過程で目標が必要です。例えば「女性管理職を何%にする」などで、これが「ものさし」です。つまり女性の数を増やすことは最終ゴールではないのです。ビジョンに向けて前進するために、「3年後までに女性役職者数を10%にする」というような具体的な目標を掲げることが重要なのです。
まずはビジョンを描き、次に目標を設定する。この順番を間違えると、ダイバーシティ経営もうまくいきません。実現した時の様子を思い浮かべずに「目標」ばかりを掲げていないか、見直してみてください。
また、すべての社員に向けて講演会や研修など、ダイバーシティ経営についての基本を学ぶ機会を設けることも重要です。会社が何のためにダイバーシティ経営を推進するのかというビジョン、目標を共有することで、社員のダイバーシティに対する取り組み意欲を高めることができます。
ダイバーシティ経営の第一歩は、何か。女性を積極的に雇用したり、活躍を進めたりすることです。しかし、多様な視点を集めてイノベーションを起こすためには、多様な人材を採用するなど、「女性活躍」だけに終わらない目標を立て、実行していくことが必要です。
目標はできるだけ具体的な数値で示すことが大切です。「時代の流れで我が社も女性管理職の数を全体の15%にします」などといっても、社員の共感を得ることは難しいでしょう。具体的な数字をあげながら、それがどう会社の利益につながるのかをロジカルに説明していくことが重要です。
そのために自社のダイバーシティ経営の進捗や課題を可視化する、「ダイバーシティインデックス」への参加を今年から毎年続けてほしいと私は考えています。
ダイバーシティインデックスは企業にとっての人間ドックのようなもので、すでに2万人以上が参加しています(2022年1月現在)。女性だけでなく、年齢、中途採用など、さまざまな多様性がどのように企業価値と関係しているのか、社内風土はどうかなどを数値化します。企業が取り組んでいるダイバーシティが、経営にどんなインパクトがあるのか、毎年進化しているのかなど偏差値や報告書で知ることができ、毎年参加することで、自社のダイバーシティ進捗度合いや他社との比較を客観的に判断することができるようにもなります。
自分たちに足りないものや、何をしたらよいかがわかるようになるので、「現状を知る」経営データのためにも導入してみることをおすすめします。投資家との対話にも、統合報告書にも活用できます。
ところで、ダイバーシティ経営は実際に働く社員にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。社員目線でのメリットをまとめてみました。
企業が多様な人財を迎え、昇進させながら組織を作ることは、その組織に持ちこまれる知識や体験に厚みが出ることですから、企業価値向上の土台づくりと言えます。社員はありのままの自分を受け入れてもらえることで、企業に信頼感を抱きます。
労働時間の長短や、在宅・出社にかかわらず、行った業務内容に対して差別のない、誰もが力を発揮できるように工夫があり、公平に評価してもらえることで、社員は大切にされていると感じ、貢献しようという意識にもつながります。
自分が言ったことを聞いてもらえる、仲間になっている、という感覚は、人が力を発揮するベースになります。この会社のために、がんばろうという思いが強まります。
企業がダイバーシティの環境を整えることで、個人が持っている力を全力で発揮できる状態が維持できるので、結果として会社としての成長が実現できます。
お客さまも取引先も多様化し、マジョリティ中心からマイノリティの集団が点在する時代のなかで、ダイバーシティ経営に取り組まない企業に未来はないと私はみています。仮に3年後の未来はあったとしても、同じ方向から同じ視点でものを見ている人だけと手をつないでやっている企業が、この先20年、30年と生き延びるはずも成長するはずもないでしょう。
海外では、ダイバーシティ経営を進めない企業に対して、罰金や上場取消などのペナルティを課している国も増えてきています。日本では法的措置はまだありませんが、男女雇用機会均等法が施行されて35年が経過したいまも、小さな変化しかない現状を鑑みると、いずれは時限的ペナルティの導入なども議論されるようになるかもしれません。
まだダイバーシティ経営に取り組んでいない企業は、ぜひこの記事を参考に、ダイバーシティ経営に取り組んで、企業価値を継続的に高めていただければと思います。