世界が変容するための世界共通言語「SDGs」──Transforming our world(第1回)

2021年01月16日

個人と組織の意識変容を通じて、社会システムの変革を推進している「イマココラボ」。その主要メンバーである能戸俊幸さんが語る、SDGsの本質。私たちがこれから進めていくべきトランスフォームとはどのようなものなのか? 第1回は、SDGsが目指しているところを再確認したうえで、地球の資源が限界に近づいている現実について解説します。

語り:能戸俊幸 構成:講談社SDGs by C-station

表面的な変化ではなく、トランスフォームを目指す「SDGs」

SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。では、ここで問題です。その正式な文書の名前をご存知でしょうか?

正解は、『Transforming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development(我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ)』。これが2015年の国連総会で採択された文書の正式名称です。SDGsはその文書の一部であり、17の目標とそれを達成するための169のターゲットで構成されています。

注目すべきは、「Transforming」という単語です。ここに、SDGsでやろうとしていること、私たちがやらなければならないことの本質が詰まっています。

もしchangeなら、服を着替えるというような表面的な変化も表しますが、Transformは「すっかり変える」といった大きな変化のみを表す言葉です。SDGsで目指しているのも、表面的な変化ではなく、トランスフォーム。つまり、世界のあり方を根本的に変革していくための取り組みなんです。

私たちの歴史は、これまでもトランスフォームの連続でした。たとえばニューヨーク五番街の街角を撮影した1900年と1913年の写真を見比べると、同じ場所を撮っているのにも関わらず、まったく異なる印象を受けます。なぜなら、1900年に道を行き来していた馬車が、1913年には自動車に変わっているからです。

1900年の時点ではまだ馬車が走っていた道路を、13年後には自動車が埋め尽くした 出典:File:Ave 5 NY 2 fl.bus.jpg From Wikimedia Commons, the free media repository https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ave_5_NY_2_fl.bus.jpg

そう、わずか13年のあいだに「社会は大きく変わった」んです。ただ、当時もある日突然すべての馬車が自動車に変わったわけではなく、なだらかな変化の中で気がつけば、すべてが自動車に変わっていてそれが当たり前になっていた、という感覚を多くの人は持っていたのではないでしょうか。一方で、「自動車こそがこれからの時代を創る」と信じて行動していた人たちは、その未来に向けて、行動を積み重ねていたといえるでしょう。

変革は、「個人の意識」と「社会システム」の両輪から生まれる

SDGsは2016年から2030年にかけて、世界がひとつとなって取り組む目標です。15年の間に、テクノロジーも進展するでしょうし、20世紀初頭の13年間に負けないトランスフォームを起こせるはずです。

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの生活は大きく変化しました。最初は局地的に流行している感染症だと思われていたのに、瞬く間に世界中に拡大。この現実を前に、「世界はこれほどつながっていたのか!」と驚いた人も多かったのではないでしょうか。

満員電車に乗って会社に通う日常がリモートワーク主体に変わり、家で仕事をするケースも増えました。その中で「ニューノーマル」と呼ばれる新しい常識が生まれました。対コロナということに限らず、持続可能な経済、社会づくりという視点をもつことも「ニューノーマル時代」においては重要です。なぜならコロナを機に、個人レベルで、特に若年層を中心に、サスティナブルへの意識が高まっているからです。

なぜ個人が重要かといえば、世界をトランスフォームするためには「個人の意識」と「社会システム」のどちらかだけを変えるのでは不十分だからです。

交通手段が馬車から自動車へと変わった際にも、まずヘンリー・フォードがT型フォードを大量生産したことが引き金となり、これから車社会へとシフトしていくことを人々が理解(意識)しました。それと同時に、道路や法を整備するなど社会システムが変化することでより多くの人の意識が変わっていきました。この例からもわかるように、個人の意識の変化が社会システムの変化へとつながり、さらに多くの個人の意識が変化していく。個人の意識と社会システムは両輪で動かしていく必要があります。「トランスフォーム」はその先にある変革であり、アップデートなのです。

アース・オーバーシュート・デーで知る、地球の限界

SDGsは環境や社会の課題を解決するための目標ですが、なかでも注目されているのが、ニュースでもよく目にする「温室効果ガス」の問題です。

温室効果ガスへの関心が高まっているのは、私たちの生活が、実はすでに貯金を切り崩しているような状態だからなんです。地球が1年間に生産できる自然資源を使い切り、吸収できる二酸化炭素の量を超えてしまう日を「アース・オーバーシュート・デー」といいます。ここでいうオーバーシュートとは「超過」という意味。私たちが使用する水産資源や森林資源、排出する二酸化炭素量などが「その年に使用可能な領域」を超える日がアース・オーバーシュート・デーです。

この日は、年始に年俸(1年間の資源)をもらったとして、「どの時点でそれを使い切ってしまうか」を表す日だとイメージしてください。資源が1年間、もたなくなったのは1970年代だと言われていて、1980年代のアース・オーバーシュート・デーは11月でした。そこから資源を使い切る日はどんどん早まっていき、2020年は8月22日になりました。その時点で1年分の資源を使い果たしてしまい、そこから先は地球の原資に手をつけていくことになります。収入が途絶えて貯金を切り崩しているような状態です。

2019年のアース・オーバーシュート・デーは7月29日だったので、2020年はそれより3週間長く年俸をもたせられたことになります。例外的な回復があったのは、新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウンなどがあったために日常的な活動量が低下したからです。それによって二酸化炭素の排出量が減るなどしたことがこの変化につながりました。意図しているかどうかにかかわらず、生活習慣を変える意味はそれだけ大きいということなんです。

今の生活様式、ビジネススタイルは、持続可能なものではない

アース・オーバーシュート・デーは、国別でも発表されています。2020年の日本は5月12日でした。世界全体で見るより3か月早く年俸を使い切ってしまい、7か月以上、赤字を累積していたことになります。日本は自然資源の消費量が世界で5番目。上位国は1位から順に中国、アメリカ、インド、ロシアです。

世界中が日本と同じような生活をしていれば、地球は2.8個必要だとも言われています。私たちの生活は、地球にとってはそれくらい負荷が大きなものなんです。つまり、今の生活様式、ビジネススタイルは、持続可能なものではないという事実を、アース・オーバーシュート・デーは教えてくれているわけですね。

持続可能でない世界を、可能なものにトランスフォームする。SDGsはそのための世界共通の目標です。「いつか、誰かが」ではなく、いつだってはじまりは「いま、ここ(自分)から」です。まずは取り組みの第一歩、「知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか。

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