「スナック菓子と地球温暖化」。つながっている"世界"――Transforming our world(第2回)

2021年02月18日

個人と組織の意識変容を通じて、社会システムの変革を推進している「イマココラボ」からのメッセージ。今回は、SDGsの17の目標とどのように向き合っていくべきかを解説します。大切なのは、「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざにも通じる"世界のつながり"を意識しておくこと! それがこれからの企業に求められるあり方につながります。

語り:能戸俊幸 構成:講談社SDGs編集部

17の目標はつながっている

SDGsの17の目標を示すアイコンは、目標ごとに色を変え、ピクトグラム(図記号)を付けた、わかりやすいものになっています。

しかし、このアイコンを決定する際には、「SDGsの考え方について誤解を招く可能性があるのでは」という意見もあったそうです。みなさんは、このアイコンで誤解を招くかもしれない点はどこだと思いますか?

デザインをよく見ると、17の目標がパネルのようにひとつひとつ区切られていますよね。それぞれがまるで独立した目標のように見え、目標同士のつながりが感じにくいのではないか、ということが懸念されたそうです。

SDGsは「貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにする」ことを目指すゴールです。17の目標は相互に作用しあい密接につながりあっています。

例として、1番目の目標である「貧困をなくそう」と4番目の「質の高い教育をみんなに」の2つの目標のつながりに絞って考えてみましょう。貧困状態から抜け出すためには、外部からの直接的な支援だけでなく当事者の収入の機会を作っていくことが必要です。そのためには前提となる知識や技能が求められますよね。つまり、当事者に対してなんらかの教育が必要なわけです。しかし、教育の機会を提供しようとしても、貧困状態にあるとその日を生き延びるために例えばこどもであっても働くということが優先され、先々を考えるとより重要度が高いはずの教育が後回しになってしまうといったことが起きます。

それぞれの目標が独立していると勘違いして単純に貧困だけ、教育だけ、と個々に対して行動すると、それが別の問題を引き起こす、悪化させる、といったトレードオフにつながり、ゴールへの到達が難しくなってしまうということが起きかねないのです。

SDGsへの取り組みを掲げている企業の中には、すべての目標に自社の取り組みを紐づけようとしているところもあれば、「うちは何番目の目標実現のために力を入れている」という企業もあります。様々な取り組みをしている、力を入れている目標があるのは素晴らしいことです。しかし前提に、「17の目標はつながっている」という理解が欠かせません。「つながり」への理解をベースにどのようなストーリーを描き、行動につなげていくのかが大切になります。

SDGsにも通じる「風が吹けば桶屋が儲かる」理論

17の目標がつながっているというだけでなく、もうひとつ大切なつながりの視点があります。

「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがありますよね。

風が吹けば土ぼこりが立って失明する人が増え、三味線の需要が高まる......というところから始まって、最終的に桶屋が儲かるというオチがつく小噺から生まれたことわざです。何かがあれば、思わぬところにまで影響が及んでいくというループを示しています。

「風が吹けば桶屋が儲かる」を現代版にアレンジすることもできます。SDGsの視点で捉えるなら、たとえば、こんな標語が考えられます。「スナック菓子を食べれば、地球温暖化が進む」。

地球温暖化問題を引き起こしている温室効果ガスは、二酸化炭素(CO2)が約7割を占めています。そのためCO2の排出量を削減していく必要性があるわけですが、それと同時にCO2を吸収してくれる森林を増やしていく必要があります。ところが、現実はどうでしょうか。たとえばインドネシアのスマトラ島では、1985年には2530万ヘクタールの熱帯林があったのに、2016年段階では1040万ヘクタールにまで減少していました。30年間で半分以上の熱帯林が失われてしまっていたのです。

なぜかといえば、熱帯林を伐採してプランテーション(大規模農園)の開発を進めたからです。そこで育てられているのがパーム油の原料となるアブラヤシや、紙の原料となるアカシアやユーカリです。植物を育てる農園だからといって、熱帯林ほどのCO2は吸収できませんし、熱帯林減少による生態系への影響なども問題です。


さて、ここからが本題です。パーム油が何に使われているかといえば、代表的なものとして挙げられるのがポテトチップスなどのスナック菓子です。そう、ここで前出の標語とつながってくるわけです。

同じようなスナック菓子で100円の商品と200円の商品が売られていれば、100円の商品を選ぶことが多いのではないでしょうか。一概には言えないにしても、安価なスナック菓子には安価なパーム油が使われている場合が多いものです。安価なパーム油には安価である理由があります。違法な熱帯林伐採であったり、過酷な環境・条件での労働を強いられている人がいたり。私たちが安さだけを基準に買い物をすることによって、商品の価格を下げるためにそういった無秩序なプランテーション開発が続けられているともいえるのです。

スナック菓子のほかでは、チョコレートやアイスクリーム、カップラーメン、マーガリン、食品以外では、シャンプーや化粧品、洗剤などにもパーム油が使われます。日本人は、ひとり当たり年間平均5キロのパーム油を消費していると言われます。

例えば「スナック菓子を買う」という私たちの日々の選択や行動が、世界で起きている森林伐採や地球温暖化の問題とつながっているという事実があるわけです。これがもうひとつのつながりの視点です。地球温暖化に限らず、世界で起きていることは私たちの選択とつながっています。つながっているからこそ、ひとりひとりが関心を持ち、行動を変えていくことは大きな意味がありますね。

企業の利益にもつながる「認証マーク」

ポテトチップスなどのスナック菓子を食べるべきではないのかといえば、必ずしもそういう話ではありません。パーム油を使った他の商品を買うときもそうですが、大切なのは、商品に使われているパーム油が「適切な方法で栽培されているか」をチェックする意識です。

「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)」という国際NPOがあります。森林保護問題とパーム油の関連が強いことから、WWF(世界自然保護基金)やパーム油産業に関係する団体が中心となって設立した団体です。

RSPOには、生産現場を対象としたP&C認証制度と、製造・加工・流通過程を対象としたSCCS認証制度があり、認証パーム油を原料とした商品にはRSPOマークを付けることができます。パーム油を使った商品を買う際に、そのマークがあるかをチェックすることは有効です。日本企業も様々な取り組みを進めていますので、そういったことに関心を持つこと、さらにはその取り組みを加速・拡大するように働きかけていくことも大切ですね。

似た意味をもつ認証マークとしては、持続可能な森林管理を考えた「FSC認証」、海のエコラベルとも呼ばれる「MSC認証」、持続可能な農業を実践している農園に与えられる「レインフォレスト・アライアンス認証」などがあります。

近年はこうしたマークの有無をチェックしながら商品を選ぶ消費者も増えてきました。パーム油の問題に限らず、たとえばFSC認証のあるティッシュペーパーやコピーペーパーを選ぶだけでも森林保護に寄与できます。企業としても様々な商品やサービスを購入していますよね。企業として何を購入し、使用するか、を見直していくことはすぐにできる取り組みのひとつです。

今後、消費者は「認証マークをチェックするのが当たり前」になっていくと思います。そうなればどうなるでしょうか? こうした取り組みをしていない企業や商品は「消費者から敬遠される存在」になっていきますよね。その変化がいつ顕在化するのか、そのスピード感もタイミングも誰にも分かりません。

消費者が問題意識を持つのを傍観したり、後追いしたりするのではなく、そういった意識や価値観の変化をリードしていくあり方が企業には求められます。企業と消費者、という関係性だけでなく、社員一人ひとりが消費者でもありますし、企業自体も消費者としての一面を持っています。そういった多面的な視点を持ち、このつながっている世界にあって、自分たちはどんなインパクトを社会に届けたいのか。その問いを持ちながら変化へと行動し続けること、それがSDGsへ取り組む企業に求められるひとつのあり方なんです。

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SDGsと担当者