実はつながっている、森とビジネス──脱炭素社会と森づくり(第3回=最終回)

2021年04月16日

音楽家・坂本龍一氏が代表を務める「more trees(モア・トゥリーズ)」が進めている森林保全活動は、さまざまな企業とコラボレーションしています。では、その取り組みの意味を社内で共有し、取り組みを広げ、次世代へとつなげていくためにはどうしたらいいのでしょうか?

語り:水谷伸吉 構成:講談社SDGs

ビジネスと森はつながっている──SDGsウェディングケーキモデル

SDGsへの意識が世界的に高まっているなか、さまざまな業種の企業様から、more treesの森林保全活動に関して興味を持っていただき、協業するケースが増えています。

とはいえ、企業が環境保全の活動を始めるにあたり、最初から社内の意志がひとつにまとまっているとは限りません。私たちと協業している企業様の担当者の方に聞いたところでは、活動への参加を社内で提案した段階で「どうしてビジネスと関係のない森林保全活動をするのか?」という声があがるケースもあったといいます。

疑問の声があがった際などに、活動の意味を説明するために使われることが多いのが「SDGsウェディングケーキモデル」です。

これはストックホルムのレジリエンスセンターで考案されたもので、SDGsの17の目標を「生物圏」、「社会圏」、「経済圏」の3層に分類しています。この図を見れば、経済活動は、生活や教育といった社会基盤に支えられ、社会基盤は生物圏、すなわち環境が整えられていてこそ成り立つ、ということが視覚的に理解できます。「どうして関係ない森林保全活動を......」の答えがここにあります。前述の会社では、この図を使った説明によって社内の意見をまとめられたそうです。

世界はつながっています。だから一見、ビジネスに直結するとは思えない自然資本への配慮(森林保全活動)が、実は「自社の持続可能なビジネス」へとつながっているのです。

大きな経済損失につながる「自然災害」

現在、世界中の森林はものすごいスピードで失われています。たとえば、インドネシアのスマトラ島やカリマンタン(ボルネオ)島ではプランテーション(大規模農園)を開発するため、南米のアマゾンでは食肉用の牛を育てる放牧地などを拡大するために、森林伐採が続けられています。

アマゾンの森林は、CO2の"巨大貯蔵庫"としても機能していましたが、農園の開発などの人的な要素とも関連して、近年、繰り返し大規模森林火災が起きています。2019年は特にひどく、1月から8月までのあいだに九州より広い規模の森林が失われました。その後の1年間にも、1日当たり東京ドーム約650個分の森林が失われていたといいます。

この動画によれば、アマゾンの熱帯雨林は地球の20%の酸素を生み出しているといいます。それだけの量の酸素が失われることは、私たちの暮らしが脅かされることを意味しています。地球温暖化によって気候変動が進み、自然災害が起きれば、経済にも大きな損失が生まれます。たとえば、台風やサイクロンによって、都市やインフラが壊滅的な打撃を受けてしまう。これも自然災害が経済損失につながる一例といえます。

結果、1998年から2017年の20年間で、気候変動に伴う自然災害による世界的な経済損失は250兆円を超える、というリポートがあります。もし損失がさらに拡大すれば、私たちの生活もビジネスも、持続可能なものではなくなってしまうかもしれない。そのリスクを回避するために、現在、世界中の企業が環境問題を考えた経営を行うようになっているのです。

【more trees×企業】森林保全活動の例

環境問題を考えるうえで、具体的にどのような取り組みができるかを、社内で検討することもあるでしょう。その参考として、more treesのケースを紹介します。

私たちは植林や育林といった森の保全そのものだけでなく、「森と人をつなぐ活動」にも力を入れています。イベントやセミナー、ツアーを通じて、森の魅力を"体験"とともに伝えることで、将来に向けた課題や対策を提示しています。

コロナ禍ではイベントの開催が難しくなっていますが、その分、オンラインイベントなどを増やしています。国産材を使ったスプーンづくりの「ワークショップ」を開催した際には、事前にキットを各家庭に郵送し、同じ場所は共有できなくても、"同じ時間"を共有しながら、一緒に製作を進めました。ほかにも2020年12月には、日頃から活動支援をしていただいている、エシカルな複合型ショップの「BIOTOP(ビオトープ)」様が開催したオンライントークセッションに、坂本龍一代表と私が参加させていただいたケースもあります。

私たちはワークショップ(体験)を通じた、「木育」にも積極的に取り組んでいます。木の素材やおもちゃなどに触れてもらうことで、情操教育につなげていきたいと考えており、オリジナルプロダクトとして、建築家の隈研吾さんにデザインしていただいた積み木も販売しています。

more treesが販売する、隈研吾さんデザインの積み木。
宮崎県諸塚村産のFSC認証材(適切に管理されていると認証された森林で生産された木材)で作られている

加えて、森づくりの協力をしていただいている企業様向けにオリジナルツアーを組むこともあります。これは社員やステークホルダー向けのレクリエーションとしてだけでなく、森林保全活動の意義などを理解してもらう場にもなっています。

現在は実施が難しくなっていますが、以前は植林や間伐を経験してもらったうえでジビエ料理を食べるツアーや、インドネシアでオランウータンに親しむツアーなども開催していました。そのなかで見えたのは、森がある場所に行けば、人はその地域のファンになり、自然と笑顔になる、ということです。やはりどれだけデジタル化が進んでも、アナログでリアルな体験ができる場をつくり続ける意味は大きいと感じています。

「経験」があるからこそ、発信できる

自分が参加するだけでなく、社内で啓発する、外部に発信することも大切です。どんな形であっても、「実体験」があれば、それもしやすいものです。「昨日、こんなことをやって、そのことにどんな意味があるかを考えたんです」といったことから互いの意識を深めていけます。営業マンであれば「うちの会社はこんなことをやってるんですよ」とトークのネタにもできるでしょう。

最近は仕事とバケーションを組み合わせたワーケーションに森林を活用したり、メンタルヘルス対策として森林セラピーを取り入れたりする動きも出てきました。「何ができるか?」という観点でいえば、可能性は無限大です。

私たちは、都市と森のつながりを重視しています。そこには企業や行政とのパートナーシップが欠かせません。企業としては、森林保全活動への寄付や支援だけでなく、森林に関わる原材料調達の見直しや、ステークホルダーを巻き込んだ体験の場の提供など、SDGsの要素をビジネスさらには経営に取り込んでいくことが大切です。よりサステナブルな社会を一緒に目指していければと思います。

記事カテゴリー
SDGsと担当者