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ピンチをチャンスに! コロナ禍を乗り越えるヒントを有識者が提言!──「ジャパンSDGsアクションフェスティバル」1日目レポート

2021年04月22日

3月26日(金)と27日(土)の2日間にわたって開催された、オンラインカンファレンス「ジャパンSDGsアクションフェスティバル」。これからの時代を担っていくユース世代も多く登壇した20のセッションの中から、1日目の「オープニング」と、「企業価値を向上させるSDGsとは ~地域×SDGs×ビジネス SDGsインディケーターが変える未来~」の模様をレポートします。

コロナの影響と、SDGsへの意気込みが語られたオープニングセレモニー

「オープニングセレモニー」では、開会あいさつとして、ジャパンSDGsアクション推進協議会会長の蟹江憲史さん(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)が登壇。今回の「ジャパンSDGsアクションフェスティバル」の開催経緯や主旨を説明しました。

蟹江さんは、昨年から続く新型コロナウイルス感染症によって、一人一人の行動が社会、そして経済に大きな影響を与えるというグローバル社会の負の側面が炙り出されたと指摘。「大きなダメージを受けた人を優先させながら経済を回復させ、これからのよりよい社会をつくっていくために、SDGsは大きな道標となっていくだろう」と述べました。

続いて、国連関係者からのビデオメッセージが紹介されました。最初に登場したのが国連副事務総長のアミーナ・J・モハメッドさん。挨拶の中で、新型コロナウイルスによって世界の持続不可能性が露呈したこと、「行動の10年」と言われながらも、2030年までのSDGs達成が難しいものになったことに懸念を示すと同時に、「今こそ変革の時であり、SDGsを道標に進展を加速させよう」と力強いメッセージを発信しました。

(左) 国連副事務総長のアミーナ・J・モハメッドさん、(右)国連開発計画総裁のアヒム・シュタイナーさん

国連開発計画総裁のアヒム・シュタイナーさんは、新型コロナウイルスによって、人間開発が過去30年で初めて下降線をたどったことを述べました。各種データからも、貧困や失業といった世界の暗い未来が読み取れますが、その解決の糸口はグリーン経済の概念の中にあると指摘。自然から得られるものの経済的、社会的重要性が新たに語られ、さらに行動様式の変化が促されることで、多くの解決策がもたらされると提言しました。

今回のイベントの開催地を代表して、黒岩祐治 神奈川県知事も登壇。SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業第1期にも選ばれた神奈川県。2019年には国連から声がかかり、知事はニューヨークで開催された「ハイレベル政治フォーラム」で神奈川県の取り組みを発表。そこからの縁で神奈川県とUNDP(国連開発計画)は連携趣意書を締結し、今回の「ジャパンSDGsアクションフェスティバル」開催につながったと話しました。

続いて、宇都隆史 外務副大臣、俳優で国連開発計画親善大使の今野美沙子さん、グローバル・シンガーソングライターのピコ太郎さん、国立大学法人東京海洋大学名誉博客員准教授でSDGs Peopleのさかなくんからのビデオメッセージが紹介されました。

さらにスペシャルゲストとして、女優で創作あーちすとの、のんさんが生中継で登場。SDGs Peopleの第1号にも選ばれている、のんさん。今回のイベントは、若い世代も多くセッションに参加しているため、「自分も若い世代のひとりとしてがんばりたい」と抱負を語りました。

コロナ禍を乗越え、SDGsの実現に「データ活用」の可能性

オープニングの第2部は「SDGsアクションで目指す『Vibrant INOCHI』未来社会 〜コロナ禍からの復興と行動〜」というテーマでトークセッションが行われました。登壇したのは、ジャパンSDGsアクション推進協議会会長の蟹江憲史さん、国連広報センター所長の根本かおるさん、慶應義塾大学医学部 教授/ 神奈川県Value Co-Creation Officerの宮田裕章さんの3名です。

昨年からの新型コロナウイルス感染症がSDGsの進捗に大きな影響を与えているという前提のもと、冒頭では根本さんがデータに基づいた世界的な影響や課題について語りました。

2020年は、UNDP(国連開発計画)が毎年出している人間開発指数が、30年の歴史の中で初めて大きくマイナスに転じた年となりました。これは、何十年にもわたる貧困削減の努力が帳消しになってしまうほどの大きな打撃でした。一方で、昨年の9月に発表された世界29ヶ国で行われた世論調査では10人中9人が、社会が持続可能で公平な方向に転換しなければいけないと考えていることが浮かび上がりました。

社会のシステム転換をしなければとの危機意識がこれほど高まっているのだという事実を踏まえ、ピンチをチャンスにして、SDGsを羅針盤に、大きく世界に変えていきたい。そういうふうに国連では世界のリーダーたちに呼びかけております」

宮田さんは根本さんの発表を受けて、これまで世界は経済的合理性で動いてきたが、それだけでは社会が回らないことがコロナで決定的になったとあらためて強調。その上で、物質的な豊かさだけでない、心の豊かさを実現するには、一人ひとりの行動が大事だと言います。

「一人一人がどこで遊び、何を食べて、どういう仕事をして、どう暮らすか、これらはすべてつながっているんだ、ということが改めて理解されました。つながる中で、互いがどう豊かにあるか、まさにこういった模索が全世界で始まっているというのが、今の状況かなと思います」

蟹江さんも宮田さんの意見に同意しながら、「マスクをして手洗いをすることで自分の命だけでなく、世界が守られる」という考え方を引き合いに、SDGsにも一人ひとりの行動は小さいけれど、重なってつながっていくことで世界が変わっていく側面があることを指摘しました。

続いて蟹江さんは、新型コロナウイルス感染症がSDGsに具体的にどのような影響を与えているかについて意見を述べました。さまざまな影響の中で、蟹江さんが最も大きな変化だとするのが「デジタル化」です。コロナによるデジタル化の促進で今回のようなオンライン開催が実現したという事実もありますが、一方でデジタル化による新たな格差が生まれるという懸念も見逃せません。そして、コロナによる状況変化に対する対策として、データ活用が今後ますます大事になってくるとも指摘しました。

さらに宮田さんは、「コストをかけずに多様性に配慮できるのがデータであり、デジタルの力であると言えます。シングルマザーの問題や子どもたちの貧困に、データを活用してより早い段階でアプローチできる可能性があります。データを活用することで、誰一人取り残さないSDGsの世界に我々はより近づくことができると考えています」と、データ活用の重要性を強調しました。

日本企業はSDGs的な思考を昔から持っていた

続いてご紹介するセッションは、「企業価値を向上させるSDGsとは ~地域×SDGs×ビジネス SDGsインディケーターが変える未来~」です。

第1部は「SDGsインディケーターで変わる未来」というテーマで、法政大学准教授/一般社団法人サスティナブルトランジション代表理事の川久保 俊さんがキーノートスピーチを行いました。

法政大学准教授/一般社団法人サスティナブルトランジション代表理事の川久保 俊さん

第2部では、クロストークを通じて、SDGsインディケーターの可能性、自治体・企業がSDGsに取り組むメリット・SDGsを通じた個人のキャリアアップ・コロナ禍からの復興と行動、行動の10年に向けてメッセージを広く発信する、パネルディスカッションが行われました。

コーディネーターは一般社団法人SDGsマネジメント共同代表の加藤宗兵衛さん。パネリストは第1部にも登場した川久保 俊さん、MS&ADインターリスク総研株式会社フェローの原口 真さん、外務省国際協力局地球規模課題総括課 経済協力専門員(SDGs広報、教育・ジェンダー分野の国際協力担当)の吉橋明日香さん、公益社団法人日本青年会議所 持続可能なビジネス推進委員会 委員長の石田英誉さんが登壇しました。

最初に、第1部で川久保さんが説明されたインディケーターの可能性について、各人の所見が述べられた後、企業がSDGsに取り組むことのメリットについて、意見が交わされました。まず、吉橋さんは海外との比較から見て日本のSDGsの進捗状況、進行状況、また企業の状況を説明しました。

「日本が国全体で、全省庁を巻き込んでSDGs推進本部を立ち上げたのが2016年。これは国際的にも早く、当時は非常に評価されました。世界に誇れる日本の強みはなんだろうと考えたときに、『マルチステークホルダー』『ローカライゼーション』の2つであると考えます。

日本のSDGs推進本部は国際機関、アカデミア、労働組合など、さまざまなステークホルダーの代表に入っていただき、意見をいただきながら、方針をつくっていくという仕組みがあり、世界に自慢できる日本の強みなのではないかと思います。『ローカライゼーション』に関しては、それぞれの地方自治体や、企業、青年会議所さんなど、さまざまなアクターが自発的なパートナーシップを全国でしていまして、それが日本国内でSDGsを推進している大きな力になっていると思います」(吉橋)

原口さんは、自治体や企業へのSDGs導入コンサルや制度設計を進めているという立場から、企業がSDGsに取り組むメリットに関してお話しされました。

「すでにSDGsに取り組まれている企業さんは、目先の会社の利益ではなく、SDGsが示している課題を解決して社会に貢献するようなビジネスに挑戦を続けることが、いずれ必ず自分の会社にとっていいことになるという信念を持たれています。もうひとついくつかの調査からわかっているのは、SDGs経営に乗り出しているような企業は、例えば大きな震災とか、コロナショックのような景気が下振れするような事態が発生しても、売り上げの回復が早いということがわかってきています」(原口)

続いて日本青年会議所の石田さんが発言をされました。日本青年会議所は、2019年に外務省とのSDGsのタイアップ宣言をするなど、SDGsの啓発に積極的に取り組んでいる団体です。現状のメンバーの意識やアクションレベルではどのようなぐらい高まっているのでしょうか。

「SDGs担当として1月から全国でセミナーを行なっているのですが、SDGsを難しく考えてしまっている人が多くいるように感じます。会社としてSDGsをやっていくことが大事なのはわかるけど、何をやったらいいかわからない。そこで私は、企業がSDGsを自分ごと化していくことが大事であると、まさにローカライズをして実践をしていくことが重要であると説明させていただいています」(石田)

以上の話を受けて、川久保さんは次のように述べられました。

「日本は100年企業と呼ばれる企業が世界でいちばん多いわけですが、その理由は、日本企業はもともとSDGs的な思考を昔から持っていて、欧米型の利益追求資本主義ではなく、ステークホルダー資本主義みたいなものを実行できているからだと思います。ですから日本企業とSDGsの親和性は高く、今こそ皆さんの活躍する時代が来ましたよ、と私はお伝えしたいですね」(川久保)

最後に、人生100年時代と言われる中、SDGsが人々のキャリアにどのように影響するのかというディスカッションが交わされました。

「今、小中学校とか高校などで環境や社会の課題についても、当然のように子どもたちが学んでいるし、そういう若者があと10年のうちに社会で活躍するような時代がきます。経営者の皆さんも、自分が子どもの頃に学んでいないからといって、そういった考え方を重要ではないと考えてしまうのは、もはや経営上の大きなリスクです」(原口)

「青年会議所のメンバーが40歳で卒業した後に、各地のリーダーがSDGsをしっかりと自分ごと化して行動することで、地域がよくなり、経済がよくなるという考え方で進めていけば、まさに後継者としてのキャリアアップにつながっていくのかなと考えております」(石田)

「小学校や中学校ではすでにSDGsの教育は始まっていて、ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)を信念とする教育がどんどん広がってきた実感があります。2030年の世界で社会の中核をなす方々が今の中学生であったり、高校生の世代であったりすると思うのですが、彼らが次世代リーダーになっていく上で、ESDはものすごく役に立っているのではないかと思います」(吉橋)


2020年から猛威を振るう新型コロナウイルスが、人々の生活や経済に暗い影を落とし、SDGsの進捗にもマイナス影響を与えたことは間違いのない事実です。しかし、国連副事務総長のアミーナ・J・モハメッドさんが訴えるように、こんな状況だからこそSDGsがこの状況を変革させる大きな指針となるはずです。そのために企業や個人が具体的に行動できることは何か。そのことを考えるヒントや提言が詰まったカンファレンスとなりました。

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