フェアトレード市場の現状──フェアトレードビジネスの現在地①

2021年05月27日

SDGsの広がりとともに認知度があがってきたフェアトレードは、SDGsとも非常に親和性が高く、多くのSDGsのゴール達成に寄与することが期待されています。第1回目は、フェアトレード市場の現状について、日本のフェアトレード関係団体・店舗等の組織であるFTFJ(日本フェアトレード・フォーラム)のフェアトレードタウン認定委員長であり、逗子フェアトレードタウンの会 共同代表でもある長坂寿久さんが解説します。【全3回】


語り/長坂寿久 構成/講談社SDGs

認知も規模も"これから"の日本のフェアトレード市場

フェアトレード市場は、2000年以降急速に伸び始め、2000年代には欧米では毎年、年率30〜40%で伸びてきました。しかし、日本は世界に比べて、まだ認知度も低く、市場規模も小さい状況です。

欧米の場合、フェアトレードについて正しく知っている人は70〜80%以上、フェアトレードラベル(認証品)について知っている人が90%以上の国もあります。しかし日本の場合は、「フェアトレードという言葉を聞いたことがある」という人が50%強、フェアトレードの中身について知っている人は34.2%という低い認知度に留まっています(2020年、FTFJ調査))。これは世界の先進国のなかでも圧倒的に低い数字です。

古いデータですが、オランダのフェアトレード関係団体が実施した調査では、2007年の世界のフェアトレード市場は、小売販売額ベースで26.5億ユーロ(約4270億円)。同年、一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)が行った推計調査では、そのうち日本市場は73億円しかありませんでした。先進国で購買力の高い日本のフェアトレード市場が、世界市場のわずか1.7%しかないということは、いかに日本の社会的・環境的課題に対する意識が低いかが、よくわかります。ITIによる2015年の第2回目の調査では、日本のフェアトレード市場規模は2007年の73億円から265億円へ3.6倍に伸びていますが、世界のフェアトレード市場も数値を追えないくらい伸びているので、むしろ日本のシェアは低下しているとみられます。

FTFJのフェアトレードタウン認定委員長、逗子フェアトレードタウンの会 共同代表 長坂寿久さん

2007年を最後に世界のフェアトレード市場の調査は行われていません。現在ではフェアトレード商品の多様化と国際的普及により、市場規模の把握は難しくなっています。その中で、国際フェアトレード認証機関であるフェアトレード・インターナショナル(FI)は、同機関の認証額から小売ベースの販売額の推計を発表しており、最新の2016年は78億8000万ユーロ(9460億円)で、FIだけでほぼ1兆円に近づいています。FIの日本市場の小売ベース認証額は最新の2019年で124億円でした(フェアトレード・ラベル・ジャパン/FJ)。

欧米と真逆の市場構造を持つ日本

2015年の日本のフェアトレード市場(認証品+非認証品の合計)の内訳をみると、商品別では食料品が90.1%(販売額239億円)と圧倒的なシェアを持ち、そのうちコーヒーは全体の63.9%(販売額170億円)を占めています。フェアトレード商品の市場は食品が最も多くを占めており、この点では日本と世界は大きく変わりませんが、市場構造が大きく異なる点がひとつあります。

2007年調査時、欧米では販売額の8割が認証商品の売り上げで、2割が個別のフェアトレード団体の活動による売り上げでした。これに対し、日本ではフェアトレード団体の個別売り上げが8割で、認証商品の売り上げが2割という真逆の結果が出ていました。2015年の調査では認証品の比率が全体の約4割にまで伸びていましたが、それでも依然として半数以下です。

欧米では認証制度により認定されたフェアトレード商品が主流ですが、日本では国際認証商品ではないものの、しかし一定のフェアトレード基準に基づき現地生産者と協働して生産している個別のフェアトレード団体の商品が依然半分以上を占めています。

この日本独特の市場構造は、ひとつは日本ではNGO型のフェアトレード団体により、これまでフェアトレードが展開されてきたためでしょう。つまり、日本ではフェアトレードが「買い物を通した国際協力」といわれることが多いように、NPOやNGOが関わるものとみられていたこともあげられます。2つ目は、日本では特に企業による社会的側面への関心と対応の遅れが指摘できます。認証制度は企業にとっては、自ら直接生産者と関わらなくても、認証商品を扱っていればフェアトレードに関わっていることになりますし、消費者に対しても説明しやすい。認証制度の登場により、欧米では企業がフェアトレードを扱うようになり市場の拡大をもたらしました

その点で、近年は日本企業もSDGsへの関心を高めていますので、企業のフェアトレード認証商品への関心が高まり、それにともないフェアトレード市場での認証品市場のシェアが高まってきていますし、今後はもっと欧米型に近づいていく可能性もあるでしょう。日本でも企業の社会的課題への関心の高まりにともない、企業の取り組みを通じて、少しずつ認知率も向上し、市場規模も拡大していくだろうと思います。

また、SDGsの普及で、フェアトレードのみならず、いわゆるエシカル商品全般の市場も増えてきています。コロナ禍の現在はフェアトレード商品の動きもいささか停滞(横ばい)していますが、コロナ後の世界では、フェアトレードともに、エシカル商品も大きな伸びをみせていくだろうと期待しています。

オリンピック・パラリンピックとフェアトレード

コロナ禍で延期となった「東京2020オリンピック・パラリンピック」は、フェアトレード商品(選手村や迎賓館で提供するフェアトレードコーヒー、紅茶、バナナ、砂糖など)優先調達促進のきっかけとなるはずでした。

2012年のロンドン大会では、ロンドン市が大会以前に「フェアトレードタウン」に認定され、認定商品の国際フェアトレード基準を調達コードのベースにした初めての大会となりました。そしてフェアトレードのみならず、その他のエシカル商品の国際認証制度も対象になりました。2016年のリオデジャネイロ大会でも、フェアトレードは最も象徴的に優先された商品となり、しかも大会開催中の8月12日にリオ市はフェアトレードタウン宣言都市と認定され、オリンピック会場を背景に式典が行われました。東京大会においても、この流れは踏襲されると見られていましたが、コロナの影響もあるのかもしれませんが、現状はロンドンやリオのような国際フェアトレード基準調達をベースとする動きはまだ見られていない状態です。

コロナ禍の開催で先行きは不透明ですが、ロンドン、リオと続いてきたフェアトレード商品の優先調達が東京大会でさらにステップアップできるよう、主催都市である東京都はもちろん、日本政府としても、フェアトレード商品の公共調達政策を導入していく動きが出てくることを個人的には期待しています。

世界各国で拡大中の「国内フェアトレード」

フェアトレードは、開発途上国の生産者と、先進国のフェアトレード団体や消費者が手を結び、格差の拡大をもたらしている貿易システムをより公平(フェア)なものに改革していく「南北貿易」からスタートしました。しかし2010年以降は、途上国のフェアトレード生産者団体からほかの開発途上国への「南南貿易」や、フェアトレード生産国の国内取引も活発化してきています。

日本でも、2011年に起きた東日本大震災では、日本のフェアトレード団体が東北の被災地に拠点を構えて滞在。救援や復興支援はもちろん、ビジネスサポートでも高い効果を発揮しました。被災地の生産者につくってもらった商品をフェアトレード団体が買い取り、それを自分たちの小売網で販売するなど、被災地の方々の生活自立へ向けて一緒に考え、販売し、収入を得ていくことで、コミュニティ開発推進にも大きく貢献しました。

こうした、いわゆる「国内フェアトレード」の拡大も、フェアトレードにおける世界の注目すべき動向のひとつです。オーストラリアでは当初から先住者アボリジニの人々への生産支援はフェアトレードとして取り組んできました。

カナダには「農業ジャスティス・プロジェクト」という移民やマイノリティの労働の権利を重視した国内フェアトレード的な認証制度がありますが、カナダの生産者共同組合などがこの認証制度を行っています。またメキシコでは、「北」側の企業や富裕層が経営していたコーヒーショップを、生産者らが直接経営し、フェアトレードの理念にもとづく地産地消型のコーヒーショップを開店、運営し始めることで、収入増と格差是正を目指しています。

ほかにもガーナでは、以前は先進国のフェアトレード団体が、フェアトレード認証を受けたカカオをスイスのチョコレートメーカーにもって行き製品化し、世界中に輸出していました。しかし近年は、ガーナでフェアトレードチョコレートを製品化する流れが生まれています。

このように、フェアトレードはコミュニティ開発であり、生産者の販売力強化により、さらに新しいフェアトレードのカタチが生まれ、可能性は現在も広がり続けているのです。

次回は、「企業とフェアトレードビジネス」について解説します。

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SDGsと担当者