2021年06月15日
SDGsとも非常に親和性が高いフェアトレードは、企業のビジネス戦略としても期待が高まっています。第2回目は、企業とフェアトレードビジネスについて、日本のフェアトレード関係団体・店舗等の組織であるFTFJ(日本フェアトレード・フォーラム)のフェアトレードタウン認定委員長であり、逗子フェアトレードタウンの会 共同代表でもある長坂寿久さんが解説します。【全3回】
語り/長坂寿久 構成/講談社SDGs
フェアトレードへの関心は国際的に高まっていますが、フェアトレードを通じて収益を上げながら、社会も環境もよくなるビジネスとして取り組んでいる企業はまだ少ないのが現状です。とはいえ、SDGsを経営戦略に組み込む企業が増えてきたように、少しずつではありますが、事業としてフェアトレードに取り組む企業も増えてきています。
フェアトレードビジネスモデルの特質は、途上国の開発協力と市場経済の2軸があるという点です。多くの企業にとって、「途上国の開発協力」という側面はCSR以外での馴染みが薄く、通常の事業活動に比べ、取り組みにくいものになっているように感じます。
日本ではまだ、「フェアトレードに取り組んでいる」といっても、社員向けにフェアトレード商品を販売したり、社員食堂で提供したりしている企業が多く、「ビジネスとしてフェアトレードに参画している」というよりは、「フェアトレードに関わっている」というレベルでした。
しかし現在においては、企業がSDGsに取り組むことは社会的責任を果たすうえで、非常に重要であり、フェアトレードに取り組むことも、その一環であることは言うまでもありません。
また、消費者にわかりやすく、企業側の説明責任も果たしやすいフェアトレードを扱うことは、課題解決型のビジネスに取り組む新しいチャンスであるともいえます。マーケティング的にも、フェアトレードはコミュニティビジネス開発のチャンスを広げ、生産者と消費者を深く結ぶことを求める新しい手法と考えられています。
FTFJのフェアトレードタウン認定委員長、逗子フェアトレードタウンの会 共同代表 長坂寿久さん
フェアトレードの国際認証制度の登場によって、企業は自らフェアトレードのフィールド(開発途上国のとくに後発農村地域)に関わることなく、認証商品を扱っていればフェアトレードに取り組んでいることになるため、企業にとっては、フェアトレードを社内使用や取り扱い品目のラインに導入するハードルが低くなりました。
フェアトレード商品を扱うことによって、企業はブランド・社名を高めることにつながり、サプライチェーンの安定と透明性を明確にでき、同時にSDGs参画企業となりうるといった、付加価値を得ることができます。
日本においてフェアトレードを直接扱いたい企業の多くは、フェアトレード国際認証制度のひとつであるFairtrade International (FI)の、日本の受け皿であるFLJ(フェアトレードラベル・ジャパン)と話し合い、ライセンス認証を受けることになります。現在FLJに参加している認証・登録事業者として64社が掲示されています(2021年6月現在)。
※フェアトレードの認証制度は、国際的にはFIとWFTOが中心的ですが、他に英国のBAFTS(バフツ/英国フェアトレードショップ協会)、フランスのエコサート、アメリカのフェア・フォー・ライフ)などがあります。
企業がフェアトレードに取り組む場合、大きくわけて次のパターンが考えられます。順番に解説していきます。
① 社内消費(使用)型
② 認証品・非認証品の輸入・卸型
③ 認証品(FI)の輸入・加工・卸し型
④ プライベートブランド(PB)型
⑤ 生産者直結(非認証型)による取り扱い型
フェアトレードの対象商品は、食品や衣料などに限定されていることから、あらゆる企業が本業として取り組むことは難しいといえます。しかし、どんな企業も従業員向けや社内で提供するコーヒーや紅茶などの飲み物としてフェアトレード品目を扱うことはできます。
欧州では企業の社内使用・消費を促進するための「職場にフェアトレードを!」といったキャンペーンなども活発に行われていますが、日本企業でもこうした社内使用を促進する企業は増えています。大日本印刷、NTTデータ、コニカミノルタビジネスソリューションズ、沖電気工業などは積極的に社内でのフェアトレード使用・消費を推進しています。
具体的には、社内での接客や従業員が飲むコーヒーや飲料をフェアトレードにする(社内給茶機の設置、社員用カフェでの提供等)、社員食堂でフェアトレード商品を使ったメニューを提供する(コーヒーや紅茶のみならず、フェアトレードカレー、ケーキ、アイスクリーム、その他デザートメニューなど)、社内パーティでの使用、さらに自社キャラクターグッズの製作(バッグ、Tシャツ、ブックカバーなど)などが挙げられます。
さらに、株主総会でのお土産用にフェアトレードケーキやコーヒーの提供など、各社がさまざまな工夫をしています。また、社内イベントの一環として、フェアトレード専門団体の協力を得て社員向けにフェアトレードショップを展開するケースもあります。
こうした社内消費・使用型は、フェアトレード認定商品が依然として食品や衣料、クラフト類などに限定されている傾向にあるため、企業の取り組みとしては最も典型的ですが、同時に最も基本的かつ大切な取り組みといえるでしょう。
自社の取り扱いラインに、フェアトレード商品を加えるために輸入する商社的取り組みです。品目としては、チョコレート(多くのフェアトレード専門団体が行っていますが、八基通商など、通常の商社も行うところが出てきています)や白ごま(九鬼産業)、紅茶(リタトレーディングなど)、ワイン(南ア、アルゼンチン、チリなどが有名)、生花(フラワーオクション・ジャパンなど)などがあります。
日本でフェアトレードに取り組んでいる企業のなかで、最も多いのがこの流通パターンです。多くがFIの認証制度を活用し、原材料などを生産者や輸出業者から輸入を行い、加工をして卸しています。認証を受けている生産者から直接輸入する形態と、輸入業者から仕入れたフェアトレード原料を加工して卸す形態があります。なお、圧倒的にコーヒーや食品の取り扱いが多い形態ですが、最近は衣料業界などにも広がっています。
多くのコーヒーメーカー(焙煎業者)がプレミアムコーヒーとしての「フェアトレードコーヒー」に注目しており、大手の小川コーヒーや第一コーヒーなど、それにカルディコーヒー(キャメル珈琲)はフェアトレードコーヒーを中心としています。
またフェアトレードコットンの取り扱いでは、たとえば、豊田通商グループでは、フェアトレード認証を受けたコットンを使って、企業や学校の制服やユニフォームを作る事業を開始。社会課題を解決しながらビジネスを拡大する新しい事業モデルにつなげています。
フェアトレードコットンについては、Tシャツ、エコバッグ、制服等を生産している企業として、トプコン、チチカカ、フェアトレードコットンイニシアチブ、ファブリックトウキョーなどがあります。また、タオル類については、今治タオル、ホットマンなどがフェアトレードタオルを生産・販売しています。
イオン系列や森永製菓などでは、フェアトレード商品を自社ブランド化して自社小売店網で販売しています。生産者との関係を重視し、フェアトレードについて体系的、あるいは象徴的に取り組む姿勢は、企業イメージ向上にも貢献していると考えられます。
なおイオンは、コーヒーとカカオ原料を「2030年までに持続可能な裏付けのとれたものに転換する」と発表し、具体的には同社のトップバリューが販売するチョコレートを2030年までにフェアトレード認証(FIラベル)とするとしています。
自社の系列ショップを多く抱えるゼンショーホールディングスは、FIの認証制度には参加せず、企業自らWFTO(世界フェアトレード連盟)やFIなどのフェアトレード基準にできるだけ準拠し、生産者と直接交流を行って輸入・加工した商品を自社の系列内飲食業態でのレストラン等で提供・販売しています。
たとえばコーヒーの場合、カフェサービスとして販売することで焙煎した豆を販売するよりも自らの系列店舗(スレトラン)で飲料用コーヒーとして提供することによって、付加価値を大きく上げることができ、小売ベースの販売額も上げることが可能です。
上記以外にも、企業によるフェアトレードの取り組みは最近多様化してきています。ホテルのカフェでの提供(ホテルJALシティ羽田などでは、ホテル内カフェやダイニングや宿泊客専用ラウンジでフェアトレードコーヒーを提供)、百貨店のフェアトレード商品販売スペースの提供(阪急うめだ本店への福市Love & Senceの出店)、などがそれに当たります。
また、最近では市民のフェアトレード活動の取り組みとして、小中学校でのフェアトレード教育の一環で、フェアトレード食品を学校給食で提供する企画も行われています。さらに5月の世界フェアトレード月間には、フェアトレードタウンの逗子市では、「フェアトレードx地産地消ランチ」キャンペーンが進められ、市役所、商工会の協力なども得て、市内のレストランにフェアトレードと地産地消商品をそれぞれ1品目以上使ったメニュー提供のキャンペーンを行っており、コロナ禍で消費萎縮がすすむ中、20店舗近くのレトスランおよびスーパー(スーパーはお弁当提供)が参加しています。
こうした市民によるフェアトレード取扱企業や店舗を巻き込んだキャンペーンも今後さらに展開されていくことでしょう。フェアトレードコーヒー、紅茶など、あるいはシーズンによってフェアトレードチョコレートを販売する店舗も増えてきています。
日本国内でフェアトレードに取り組む企業が増えてきたことで、企業間の協力体制も構築されてきています。企業間コラボでフェアトレードセミナーを開催した例もあり、こうした動きはますます加速していくとみられています。
日本のフェアトレード市場は今後も伸びていくことが期待されています。しかし必ずしも、欧州のやり方をそのまま取り入れることが最善とはいえません。
日本市場では、安心・安全な調達ができることや、品質のよさをアピールすることが消費喚起につながります。「生産地の子どもたちが学校に行けるようになる」というだけでなく、消費者にとっても有益なものであることをアピールしていくことが重要です。
日本のフェアトレード認知度をあげるためには、企業の取り組みが欠かせません。企業が積極的に取り組み、その取り組みを発信することで消費者の関心が高まり、メディアも注目し、フェアトレード商品を手に取る人が増えていくでしょう。つまり企業の「取り組み」と「発信」は、フェアトレード市場拡大のために不可欠なのです。
SDGsを本気で達成するためには、市民一人ひとりが生活を見直さないといけないといわれているなか、企業にも現在の経済システムやビジネスモデルの変革が求められています。その観点において、フェアトレードは企業がSDGsに関わる入り口としても、非常に重要な役割を果たしています。
次回は、「SDGsとフェアトレード」をテーマに解説します。