2021年04月14日
3月26日(金)・27日(土)にオンライン開催された「ジャパンSDGsアクションフェスティバル」。さまざまなゲストがそれぞれの切り口でSDGsについて語るなか、講談社からも『FRaU』編集⻑ 兼 プロデューサーの関龍彦が登壇。「SDGsの伝え方」について、文藝春秋 『週刊文春』編集局長の新谷学さんと、互いの立場から語り合いました。
新谷 ひとくちにメディアといっても、『FRaU』のようにエンタメ系のポジティブな発信をするものがあれば、『週刊文春』のように事実をしっかり伝えるジャーナリズム系のものもあります。SDGsの推進には、多様なメディアがそれぞれの立場で伝えていくことが大事だと思っていますが、ともすると「これをやらなくてはいけない」とか、逆に「これをやってはいけない」というふうに、がんじがらめになって息苦しくなってしまう可能性もあると思います。
関さんは日本のメディアにおいてSDGsのパイオニア的存在ですが、どんなことを意識してSDGsを伝えているのですか。
関 たしかにSDGsは大きな問題で難しいテーマです。そこで『FRaU』は、あくまでも女性誌をパラパラ眺める気分でSDGsを感じ取ってもらえるように、ということを意識しています。「押しつける」とか「啓蒙」という目線ではなく、たとえばライフスタイルの提案のひとつとして紹介することで、「おしゃれでいいね」「これならやってみたい」という気持ちになってもらえるような記事作りを心がけています。新谷さんはいかがですか?
SDGsメディアのパイオニアとしてメディア業界をリードする『FRaU』のSDGs号とSDGs MOOK
新谷 きちんと取材をして検証し、報道していくというのが我々の役割ではないかと思っています。SDGsが非常に大きなムーブメントに成長した今、その企業が理念に沿って取り組んでいるのかどうかを、経営者の意識も含めて正しく見極めることがますます重要になってきています。
サラリーマンの偉い方や経営者層を中心に、日常的にSDGsバッジをつけている方も増えてきましたが、SDGsが非常に大きなムーブメントになっているだけに、SDGsへの参入が玉石混淆になっているのも感じています。
たとえば、グリーンエネルギーにしても、政府からの補助金を目当てに形だけ太陽光発電やバイオマスに取り組む企業もあれば、本当に高い志を持って参入している企業もあります。「SDGsウォッシュ」という言葉がありますが、立派な目標であるがゆえに、それを隠れ蓑にして悪用しようとする人たちがいないのかどうか、しっかり見極めなければいけないと思っています。
MITSUMI 文春オンラインで3月18日に公開された『「本当」のSDGsと「見せかけ」のSDGs。消費者をあざむくSDGsウォッシュを見破ろう!』という記事は、非常に興味深く読ませていただきました。惑わされないように、私もちゃんと見極めていきたいと思いました。
『週刊文春』で掲載された「ユニリーバに学ぶ「見せかけの"SDGsウォッシュ"を見抜く方法」は、文春オンラインでも再掲され話題となった
新谷 ありがとうございます。週刊文春は過去にも「濡れ手に粟で儲かるぞ」とSDGsに取り組む企業を告発する記事を出しています。今後も「本物・本質を見極める」姿勢はますます強化していきたいと思っています。
ただ、「これはけしからん、あれもけしからん」とすべて摘発するようなことばかりやっていると、世の中が息苦しくなってしまうと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大で自粛一辺倒になったときに、世の中に「コロナ警察」とか「自粛警察」みたいなのが増えましたが、「これがダメ」「あれがダメ」だけでは息がつまっちゃいますよね。たとえば「あ、あの人、スーパーで袋もらったぞ!」などとお互いが取り締まったり、監視しあったりするような世の中になってしまっては、持続可能な世の中とは真逆に向かってしまうと思います。
これは明らかに一線を超えているという事実に対しては厳しく追求しますが、「SDGsの錦の御旗に逆らうものはすべて抹殺」みたいな風潮にはならないようにはしたいと思っています。
関 SDGsを伝えるうえで、新谷さんがおっしゃったような厳しく追及するジャーナリズムの視点は絶対に必要だと思いますが、たしかにそれだけでは息苦しくなってしまいますよね。
「北風と太陽」という物語にたとえれば、女性誌は太陽アプローチです。ジャーナリズムがすべて北風アプローチとはいいませんが、この「太陽」と「北風」の両方で伝えていくことが、SDGsの推進には不可欠なのではないかと思います。
『FRaU』は企業様の記事をつくることも多いのですが、その企業や従業員のみなさんのがんばっている姿や、素晴らしい取り組みを「語り部」として読者に伝えることが使命だと思っています。ウソはないかというのはもちろんチェックしますが、企業が頑張っているサービスや商品を、ひとりでも多くの人に共感してもらいたい。そのための仲介役として『FRaU』がいる、というイメージです。
新谷 結局、なんでもかんでも「ダメ」ではなく、ネガティブとポジティブ両面でやっていくことが信頼につながる、ということなんでしょうね。
『週刊文春』は本音と建て前でいえば極めて本音メディアだという印象が世の中に浸透しています。大変ありがたいことに、「文春が書いているのは本当のことだ」と受け止めていただけることが多いので、その文春が「この企業のSDGsの取り組みはすばらしい」「これはSDGsの試みとして非常に面白い」と発信すれば、それはすごくリアリティを持って受け止めていただけるかもしれない。だから、これからはいままで以上に「みなさん、これは本当にすばらしいです」というポジティブな発信にも力を入れていきたいと思っています。
今回非常にいい機会をいただいたので、私自身としてもSDGsに取り組んでいるさまざまな企業さんのことをもっと調べたいですね。......というと怖がられるかもしれませんけど(笑)。
関 ただ「読む」だけでなく、「信じる」とか「それによって行動を起こす」ということになると、しっかりとしたストーリーとブランド性を持ったメディアである必要があります。『週刊文春』と『FRaU』では、方向は違いますが「プライドを持って信念を伝える」という部分では、どちらもすごく似ているのかなと思っています。
新谷 SDGsを伝えるためには、世の中に求められる役割が何なのか、自らのコアコンピタンス(競合他社に真似できない核となる能力)は何かということを自分たちでしっかり自覚することも重要です。たとえば我々はスクープをひとつ取るために、膨大な手間と時間と費用をかけています。
我々にとっては、「自分たちが報じていることが事実である」ということを信じていただくことが何より重要です。SDGsの報道に関してもそれはまったく同じで、自分たちが掲げる看板・ブランドを毀損することのないように、それを磨くためにはどこに力を入れればいいのかという優先順位を間違えないようにしていきたいと思っています。
関 そういう意味では、『FRaU』は「SDGsを伝える」ということをいちばんの使命にしている、といえるかもしれません。
SDGsの推進には「伝える」ことがとても大事です。SDGsが掲げるゴール12に「つくる責任 つかう責任」というのがありますが、ここに「伝える責任、伝わる責任」をプラスするといい、という人もいるくらいです。
SDGsの取り組みを始めることに一生懸命で、なかなか伝えるところまでたどり着いていないという企業や個人の方も、まだたくさんいらっしゃいます。自分たちで伝えていくこともできますが、できない部分はどんどん私たちのようなメディアを頼ってほしいと思っています。
新谷 SDGsは誰でも始められるし、続けられるものでなければならないと思っているんです。なので個人的には「おおらかなSDGs」の方が持続可能なSDGsになるのではないかと思っています。
うちは4人子どもがいて、1番下の子はまだ中学生なんです。自分がいなくなった後の地球でまだまだがんばる子どもたちや、会社の若者たちにどんな社会を残していけるのかと考えると、決して「自分は逃げ切ったからあとは知らない」と無責任なことは言えないですね。
関 自分たちが生きてきた日本が、地球が、同じように続いてほしいという気持ちは、誰にでもあると思います。そう考えると「SDGsに関係ない」人って、地球上にひとりもいないんじゃないかと思います。
新谷 偶然、私も関さんも1964年生まれなんですよね。バブルを謳歌してきた私たちの世代は、今日より明日は必ずよくなるし、すべてのものが進化・発展し続けるという「おとぎ話」を信じていました。でもそれは間違っていた。だから「右肩上がり」を謳歌してきた世代の責任として、地球がこれ以上悪くならないようキープすることや、あるいはほかのやり方で再び上げる方法を、これからも考えていかなければいけないと思っています。
MITSUMI 私もこれからも、『FRaU』と『週刊文春』のSDGsを追いかけていきます! 今日はお2人とも、ありがとうございました。
ジャパンSDGsアクションフェスティバル
3月27日(土)12:30〜13:00 /チャンネル2
【登壇者】※敬称略
新谷 学(文藝春秋 『週刊文春』編集局長)
関 龍彦(講談社 『FRaU』編集⻑ 兼 プロデューサー)
ファシリテーター:MITSUMI(FMヨコハマ DJ/かながわSDGsスマイル大使)