2021年07月28日
人間の体の中で働く細胞を擬人化し、体内細胞の人知れぬ活躍を描いた『はたらく細胞』。このシリーズ累計700万部超の人気コミックが、世界に向けて感染症予防の大切さを伝え、注目を集めています。JICA(国際協力機構)の支援を得た、厚生労働省との共同企画について、国際ライツ事業部の古賀義章が解説します。
──厚生労働省と『はたらく細胞』のコラボレーションが注目を集めています。マンガの世界観を活用した、ポスターや動画(ムービングコミック)は、どのような経緯で誕生したのでしょうか。
古賀 もともとは、2020年の春から『はたらく細胞』のマンガIPを活用して、インドで別のプロジェクトを始める予定でした。
それは、弱い立場にいる女性や子どもたちに向けて、マンガを通じて衛生面の知識や健康的な生活を送るヒントを届けることで、インドの社会課題解決を目指す、というものでした。
ところが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックでプロジェクトがストップ。そこで、あらためて感染症対策や知識啓発のためのプロジェクトとして、インドから全世界に視野を広げて動き出したのが、今回の取り組みです。
厚生労働省との共同企画で制作された『はたらく細胞』の感染予防啓発ポスター Ⓒ清水 茜/講談社
ムービングコミックでは、『はたらく細胞』の原作のなかで、国立国際医療研究センターの忽那賢志医師に医療監修を依頼した「新型コロナウイルス編」。加えて、今回新たに、忽那氏と厚生労働省に監修をお願いして「感染予防編」も制作しました。
公開すると、大きな話題となり、2ヵ月で150万回以上の再生を記録しました。
2022年3月31日まで期間限定で無料配信されている『はたらく細胞』 のムービングコミック、「新型コロナウイルス編」と「感染予防編」
特設サイト:https://shonen-sirius.com/saibou-movingcomic.html
©清水茜/講談社 ©清水茜・かいれめく/講談社
なお今回、JICA(国際協力機構)の支援を得て、日本語版に加えて、英語やヒンディー語の音声入りの"ムービングコミック"を制作。YouTubeで世界無料配信を行っています。
──"ムービングコミック"は、アニメと何が違うのですか?
古賀 ムービングコミックは、コミックのコマを動画にした、BGMや効果音入りのコンテンツです。基本は静止画ですから、アニメに比べると、制作のコストも日数も大幅に削減可能です。
「感染予防編」のワンシーン
今回のプロジェクトは、新型コロナウイルス感染症の感染予防を目的に始まったものですから、スピード感も重要でした。そこでムービングコミックで展開することにしました。
また、コマ割が大きいのでスマホでも読みやすく、メッセージが伝わりやすいという利点もありますし、動画ニーズは高まるばかりです。今後ますますムービングコミックの事例は増えていくのではないでしょうか。
──日本語版は150万回再生を達成するなど、大きな反響を呼んでいます。病院や学校からの問い合わせもかなり増えたとお聞きしました。
古賀 『はたらく細胞』ファンの方からは、「こういう作品を待っていた」という感想をたくさんいただきました。
また、ムービングコミック配信後、全国の病院や学校から「映像を感染予防の啓発に活用したい」という問い合わせが数多く寄せられました。そこで、教育機関や医療施設等に限り、無償で映像提供も行っています。
2022年3月末までの期間限定とはなりますが、施設内での大型モニターでの上映やHPにリンクを貼るといった取り組みが可能です。講談社HPの「刊行物利用申請フォーム」より簡単に申請ができますので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
加えて、厚生労働省にも「子どもと一緒に動画を見て学びたい」「細胞の働きを見て、自分自身の体を大切にしなくてはいけないと思った」という感想や、映像提供の依頼が数多く届いているそうです。
今回、「『はたらく細胞』を通じて、新型コロナウイルス感染症に関する正しい知識・情報が多くの人に届けられた」と厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部広報班からも大変喜ばれました。
JICAからも、厚労省と『はたらく細胞』との共同企画にご支援いただき、「世界中の人々に手洗いや感染症予防の大切さをわかりやすく届けられた」と大変ご満足いただいています。英語とヒンディー語の翻訳に続き、すでにほかの言語化のご相談もいただいています。今後徐々に言語を拡大できたらと思っています。
英語版のムービングコミックでは、セリフも音声化されている
──JICAが"マンガ"とコラボするというのは、世界初の取り組みです。近年、マンガIP活用が広がってきた理由はどこにあると思われますか。
古賀 難しいことを分かりやすく伝えられること、そして共感を得やすいこと。この2点が、マンガIP活用が広がってきた理由だと考えています。
厚生労働省のように、国が発信する情報は、ともすれば上からの押しつけになりがちです。今回のムービングコミックでは、「なぜマスクをしなくてはいけないのか」「感染症とはどのようなものか」という難解なテーマがわかりやすく、そしておもしろくまとまっているため、配信開始から2ヵ月弱で約150万回再生されるという大きな反響を呼ぶことができたと考えています。
「マスクをしましょう」という"厚生労働省からのメッセージ"ではなく、自分の体の中で働いている細胞目線で「早くマスクをしてくれないと困る」と訴えられることで、自発的に「マスクをしよう!」と感じ、多くの方の共感と納得が得られたのではないかと思います。
SDGsのように難解になりがちな情報を「自分ゴト」としてわかりやすく伝える手段として、マンガIPは非常に有効だと思います。
──マンガIPをまだ活用したことがないという企業や自治体であっても、「厚生労働省のお墨付き」をもらった『はたらく細胞』なら取り組みやすいと感じてもらえそうです。
古賀 『はたらく細胞』は現在、欧米やアジアなど世界16の国や地域で出版され、アニメは約130の国や地域で配信されています。
世界的に人気の高いマンガIPを活用することは、共感を得やすくなります。厚生労働省やJICAともコラボしている作品という信頼性もありますし、企業や自治体のご担当者様の高い採用基準もクリアしやすく、多種多様なマンガIPの中でも、ご利用しやすいのではないかと思います。
個人的には、体の中に必ず存在する「細胞」を擬人化したこの作品は、「自分ゴト化」が課題といわれているSDGsの情報発信や啓発などにも最適のIPだと考えています。実際、学校や病院などから、教材として映像を使用したいというご依頼を多くいただいたことからもわかるように、SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」の推進に、大きく貢献できる作品だと思っています。
──JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」に、「インド国 女性のエンパワーメントを推進するコミック(普及・実証・ビジネス化事業)」が採択されたと聞きました。ジェンダーダイバーシティ推進のためにマンガIPをどう活用する予定ですか。
古賀 女性コミックにはさまざまな活用方法があると思っています。
たとえば、男性とのフィジカル差に悩む女子サッカー選手が、自分らしく輝いていく様を描いた青春フットボールストーリー『さよなら私のクラマー』や、骨肉腫で片足を失い生きる希望を失った女子高生が、競技用義足・ブレードとの出会いによって人生を大きく変えていく青春パラスポーツマンガ『ブレードガール 片脚のランナー』など、女性を応援するコミックの普及を通じて、インドのジェンダー問題解決を目指していきたいと考えています。
マンガに登場するスポーツメーカーや義足メーカーなどとのタイアップなども考えられますので、さまざまなタッチポイントを設けて、インドのジェンダーダイバーシティに貢献していきたいと思っています。
今後も国内外を問わず、マンガIPを活用してSDGsのゴール達成に貢献していきます。ご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
●厚生労働省共同企画、JICA共催 『はたらく細胞』特設サイト
https://shonen-sirius.com/saibou-movingcomic.html