できるわけないを覆す「やりたい」の突破力──高祖父・渋沢栄一に学ぶSDGs⑤(最終回)

2021年09月16日

SDGsの目標達成に必要なのは、企業トップの強い意志と発信です。渋澤栄一の著書『論語と算盤』には、"できない"目標を実現させるヒントも書かれています。渋澤の玄孫が解き明かすSDGs実践のための知恵、最終回です。

語り/渋澤 健 構成/講談社SDGs

「できるわけない」という思い込みを外す

2015年にSDGsが発表された際、掲げられた17の目標と169のターゲット、232の指標を見て、ほとんどの人が「こんなにたくさんはムリだ」と思ったのではないでしょうか。しかし、登場から5年が経過し、現在SDGsは日常のなかにずいぶんと浸透してきたように感じます。

企業はホームページや広告などでSDGsへの取り組みを発信し、SDGsを取り上げるメディアも急増しました。Z世代の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんのような「有名人」も登場し、急速な意識の高まりを実感している人も多いのではないでしょうか。

SDGsは「と」(組み合わせ)の力が集まってできる世界共通の実行目標です。正しいやり方や取り組み手順はありません。ゴールの2030年に向けて、小さなことでもまずは取り組んでみることから始めることが大切です。

まずは一人ひとりが意思を持って行動すること。その延長にSDGsの目標達成があります。なぜなら、それこそが「ムーンショット」だからです。

「ムーンショット」という言葉は、1962年にアメリカのジョン・F・ケネディ元大統領のスピーチからきています。アメリカと冷戦状態にあったソ連(当時)に宇宙開発競争で勝つために、当時のアメリカの科学力では不可能だといわれていた月面への人類着陸を「60年代以内に実現させる」と宣言したのです。

当時、宇宙開発ではすでに人類初の友人宇宙飛行を成功させているソ連がトップランナーであり、アメリカはむしろ遅れを取っている状況にありました。しかし、ケネディのこの強いスピーチが若い投資家やエンジニアらを鼓舞し、宇宙開発のスピードを加速化。講演のわずか8年後にアポロ11号を打ち上げ、人類初の月面着陸を成功させたのです。

現在、「ムーンショット」はビジネスで「困難で飛躍であるが、実現すれば大きなインパクトが期待できるプラン」を意味する言葉として使われています。

私は、SDGsはまさにこの「ムーンショット」だと思っています。現実から飛躍して、それを実現する。これは古代から人類が繰り返してきたことであります。各企業のリーダーと、私たち一人ひとりの飛躍するイマジネーションと強い意志によって、SDGsの目標達成は必ず実現できるはずです。

逆境に耐え「やりたい」を貫くことが重要

『論語と算盤』の第1章「処世と信条」のなかに、「大丈夫の試金石」というものがあります。そのなかの一文をご紹介しましょう。

自然的逆境は大丈夫の試金石であるが、さてその逆境に立った場合は、いかにその間に処すべきか。

渋沢栄一像

自然的な逆境はいつの時代にも起こり得る。その時にどうやってその問題に立ち向かうべきかと渋沢は問うているのです。渋沢はまず、その「試練」が人為的なものなのか自然的なものなのかを区別し、自然的なものであれば天災のようなものだからと抗わずに「逆境力」を鍛えよと言っています。

ただ、これが人為的な逆境であった場合には、「何でも自分に省みて悪い点を改めるより外はない」と述べています。

世の中のことは「自分からこうしたい、ああしたいと奮励さえすれば、大概はその意のごとくになる」と渋沢は言います。けれども多くの人は逆境を避けすぎて、「自ら幸福なる運命を招こうとせず、ほとんど故意にねじけた人となって逆境を招く」と教えています。つまり、「こうしたい、ああしたい」よりも「どうせできないだろう」という心の持ちようが成功の妨げになると言っているのです。

ここで重要なのは「できるか、できないか」ではありません。私の知る限り、社会で成功している人は「できる、できない」で行動はしていません。「やりたい、やりたくない」の明確な軸としています。渋沢栄一がリスペクトしていたアメリカの実業家アンドリュー・カーネギーも「成功者は必ず、自分がやりたいことを仕事にしている」と言っています。渋沢の「大丈夫の試金石」と同じです。

この「できる/できない」「やりたい/やりたくない」を図で示すとこうなります。

「やりたい/できる」の実現 (著者作成)

「やりたい」ことが「できる」、右上がベスト・ポジションになります。一方、左下は「できない」かつ「やりたくない」ですから、無視してもいいポジションかもしれません。右下の「できるのにやりたくない」は、問題領域です。はたからみると「もったいない」なのです。

ただ、ほとんどの場合、私たちは左上のポジションにいます。「やりたいことはあるのに、時間やお金、経験、人員がなくてできない......」となっています。

このときに、「できる/できない」で考えると、自分の中で「できない」という葛藤がありますから、「やりたい」と思っていたことでも「やりたくない」へと沈んでしまう可能性もあります。

ですが、「できない」逆境にいても、「やりたい」気持ちを持ち続けていれば、「できないことがいつの間にかできていた」というムーンショットを実現する可能性があります。この可能性を持ち続けることが大事なのです。

SDGsのゴール達成には、言葉にし、発信することが重要

では、SDGsのゴール達成に置き換えて考えてみましょう。私たちは基本的に左上にいます。

「できる/できない」の軸では、目先の成果しか変えることはできません。しかし「やりたい/やりたくない」の軸に沿って自分の信念に従って行動していくことで、いつしか「できる」領域へと変化してきたのが現在です。

さらに歩みを進めるためには、まずはSDGsを実践している企業のトップが「やりたい!」と言葉にし、発信し続けることが大事です。

その声を多くの人々に届けるための方法も、現在は多種多様な選択肢があります。雑誌やテレビといったメディアはもちろん、SNSや動画配信などのテクノロジーも進化しています。誰もが世界とつながることができ、どこからでも自由に発信ができます。

「と」の力を発揮し、想像力で実現するSDGs

「和」を大事にする日本人は本来、「と」の力を発揮するのにとても長けています。

日本人は島国だから画一的な感覚の人が多いと思いがちですが、実は多様性を受け入れ、異分子を複合させるのが得意なのです。

『論語と算盤』も異分子の複合ですが、もっとわかりやすい例がカレーうどんです。インドのスパイスと、日本のダシ、おそらく中国由来の麺をあわせた日本独自のオリジナル料理は、私の好物でもあります。垣根をつくらず、持っている感性と発想を活かしたからこそ、「カレーうどん」は生まれたのです。

想像力は人間の強みであり、AIにだって勝てる特別な能力です。一人ひとりが想像力をフルに働かせて、「やりたい」に向かって進んでいけば、SDGsの目標達成は必ず実現できると私は信じています。

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