"「わが家」を世界一幸せな場所にする"積水ハウスのSDGs 企業のSDGs取り組み事例vol.33

2022年07月21日

国連でSDGsが採択される10年以上前から、「住」で持続可能な社会を目指してきた積水ハウス。SDGsの社内浸透や推進をどう実現してきたのでしょうか。ESG経営推進本部の小谷美樹さんにお聞きしました。

積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 小谷美樹さん

グローバルビジョンの延長にある、積水ハウスのSDGs

──御社は2008年に「脱炭素宣言」を行い、住宅のライフサイクルにおけるCO2排出量ゼロを目指してきました。その理由を教えてください。

小谷美樹さん(以下、小谷) 当社は、「人間は夫々かけがえのない貴重な存在であると云う認識の下に、相手の幸せを願いその喜びを我が喜びとする奉仕の心を以って何事も誠実に実践する事である。」という企業理念の人間愛に基づいて事業を行ってきました。

これが現在の"「わが家」を世界一幸せな場所にする"というグローバルビジョンにもつながっています。

企業理念である根本哲学「人間愛」を軸に置いた、積水ハウスのSDGs


──ビジョンの延長にある「脱炭素宣言」であり、だから積水ハウスのSDGsの軸は、「人間愛」なのですね。

小谷 はい。ですが、気候変動の激化や自然破壊の増大により地球をとりまく環境が悪化すれば、お客さまに幸せな人生を提供し続けることはできません。

しかも住宅は、50年・100年というスパンでのサポートが必要です。長期にわたりお客さまの住宅をサポートし続けるためには、弊社が社会から必要とされる企業であることも必須です。

こうしたことから、当社では1999年に「環境未来計画」を発表し、省エネ住宅の普及で地球温暖化防止に貢献することを目標に掲げました。

さらに2008年には、住宅のライフサイクルでCO2排出ゼロを目指す「2050年 脱炭素宣言」を日本企業ではじめて宣言し、エネルギー収支をゼロ以下にする「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の普及をはじめとした活動に注力しています。

積水ハウスのネット・ゼロ・エネルギー・ハウス「グリーンファースト ゼロ」の概念

「SDGs」はサステナブルを自分ゴト化できる共通言語

──「脱炭素宣言」後、2015年に世界共通の目標「SDGs」が誕生。新たな言葉が生まれ、浸透するなかで、取り組んだことはありますか?

小谷 当社では、従業員一人ひとりが自社グループのCSRや環境への取り組みとその課題について理解を深める必要があるとの考えにより、SDGsが策定される10年前から「サステナビリティレポート」を全社員に配布していました。しかし、「サステナブル」を十分に「自分ゴト」化できていないという課題がありました。

そこで、SDGsという共通言語が広がり始めた2018年に、まずは経営幹部を対象にSDGsの本質を楽しみながら理解する「SDGsカードゲーム」を使った勉強会を行いました。次に、幹部以外の社員にも勉強会を実施し、参加者にはSDGsバッジを配布しました。すると、「SDGsバッジをつけていることで、銀行やお客さまとの意思疎通に役立った」と、勉強会に参加する社員が増加。「サステナブル」を自分ゴトととらえ、ビジネスチャンスに活かす社員が増えていきました。

2020年には、「30年ビジョン」を策定。そのなかで経営ビジョンを達成するための重要な柱として「ESG経営のリーディングカンパニー」を掲げました。経営の柱として「ESG」を据えたことで、職種や年齢問わず、全社員がESGやSDGsへの取り組み意識を持つようになり、全国各地の支店でSDGs達成につながるイノベーションが起こっていると感じています。

──SDGsの目標達成のためには、社員の理解促進も重要な要素ですよね。

小谷 はい。SDGsの目標を達成するには、担い手としての社員の理解、浸透が欠かせません。

そこで、どのようにESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsを捉え、どう事業に活かすのかを徹底的に考えるために、全社員を対象にした「ESG対話」という全員参画型の対話を行っています。対話の中から会社や社員自らが大切にしていることに気づくことを目指しています。

ESG対話は、ESGを「自分ゴト」としてとらえるための最初のステップ。「会社がESG経営に取り組んでいるから」という思考ではなく、「自分自身を取り巻く環境がESGであり、その中に企業もある」と、社会をESGの視点でとらえることを目指しています。

ESG対話によって「自分がSDGsに取り組むことは、社会の幸せの好循環になる」と理解し、行動につなげる社員も増えています。将来的に、すべての社員が地球環境や社会課題の解決を意識しながらお客さまの「幸せな場所」をつくるために業務を行えるようになれば、さらにお客さまに満足していただけると同時に、社会貢献も果たすことができると考えています。

こうした積み重ねによって、社員や取引先、株主の皆さまにも幸せがもたらされ、結果的に当社グループの業績アップにつながると考え、取り組みを進めています。

IT・医療業界と連携し、SDGsの目標達成を推進

──SDGsの推進には、「自分ゴト化」がとても重要ですが、パートナーシップも欠かせません。目標達成のために御社はどのような連携や協業をされているのでしょうか。

小谷 おっしゃる通り、社会の課題解決は、決して一社で達成できるものではありません。企業間や社会との連携が不可欠です。

現在、成長戦略のひとつに掲げている「プラットフォームハウス構想」では、持続可能な社会の実現に向け、IT業界や医療業界と連携して、これまでの住宅産業にはなかった新しいサービスを提供するべく取り組んでいます。

先端技術を用いて住まい手のデータを活用し、人生100年時代の幸せをアシストする「プラットフォームハウス構想」

具対的にはハード・ソフト・サービスを融合し、世界初のシステムとなる在宅時急性疾患早期対応ネットワーク「HED-Net(In-Home Early Detection Network)」の推進などがあります。

日本の脳卒中患者の約8割は、家の中で発症しているというデータがありますが、発見の遅れから亡くなってしまったり、介護が必要になったりするケースもあります。つまり治療・回復への重要なカギを握るのが「いかに早期発見するか」です。当社ではこの点に着目して、「HED-Net」という研究・開発に着手しました。

「HED-Net」は、住まいに設置されているセンシング技術が、住まい手(ユーザー)の心拍数、呼吸数などのバイタルデータを検知・解析します。

最大の特徴が住まい手にストレスをかけない非接触センサーです。急性疾患発症の可能性がある異常を検知した場合には、すぐ緊急通報センターに通知、オペレーターが呼びかけにより安否確認を行い、救急への出動を要請。救急隊の到着を確認し、玄関ドアの遠隔解錠・施錠までを一貫して行います。

「HED-Net」を含めた、人生100年時代の幸せをアシストする「プラットフォームハウス構想」の実現によって、要介護者などの減少に貢献したいと考えています。これにより、家庭内事故による社会コスト(医療費・介護費など)について、試算によると最大1兆9000億円の削減が期待できます。

──少子高齢化が進む日本では、住まいにおけるIT活用も、今後さらに重要性が増していきそうですね。

小谷 はい。また、"「わが家」を世界一幸せな場所にする"ためには、住んでいる地域も幸せでなくてはなりません。当社では、2006年から社会的活動を担うNPOなどの団体を支援する、会社と社員の共同寄付制度「積水ハウスマッチングプログラム」に取り組んでいますが、2021年8月より、地域の子どもや環境に関する社会課題を解決し、地方創生に寄与する制度へと改良しています。2022年度は全国94団体へ約4580万円の寄付を行い、次世代育成や環境配慮に関わる活動の応援で幸せな社会基盤づくりに貢献しました。

参加した従業員からは「会社の社会的意義について考えるようになった」「SDGsの取り組みに参加している意識を持てた」などの声が聞かれ、意識の変化が見られています。

チームの士気向上と業務改善につながった「男性の育休推進」

──御社は社員にとっての「わが家」である会社を幸せな場所にするために、男性社員の育児休業取得にも力を入れています。どれくらい浸透しているのでしょうか?

小谷 男性の育児家事参画は、女性の社会進出や少子化対策に寄与しますが、会社にとっても社員にとってもよい成長のチャンスでもあります。

当社が2018年9月に開始した「男性社員1ヶ月以上の育児休業(育休)完全取得」は、社長の仲井嘉浩が出張でストックホルムを訪れた際、男性の育児参加率が高いことに感銘を受け、帰国後すぐに検討に入りました。

3歳未満の子をもつ男性従業員が最初の1ヵ月間を有給で取得することができ、家庭の事情などに合わせ最大4回に分割して取得することも可能です。本格運用を実施した2019年2月から2022年4月末までの間に、3歳の誕生日を迎える子をもつ男性従業員が100%、1ヵ月以上の育児休業を取得しました。

男性社員が全員育児休業を取得するようになったことで、属人化していた業務をマニュアル化してチームで分担するようになり、チーム内の士気向上と業務改善につながりました。また、実際に育児を経験したおかげで「家の間取りや動線についてお客さまとリアルな目線で話ができた」と、ビジネス上の強みを増やした社員もいます。

──2022年4月より「育児・介護休業法」が改正され、SDGs視点でも男性の育休推進は重視されていますが、なかなか進んでいません。どうしたら御社のように男性の育休取得率を上げることができるのでしょうか。

小谷 「男性の育休を推進したいけれど、生産性が気になって中々推進できない」という相談を受けた場合、私は「まずは制度づくりの前に、試行から始めてみてください」とお伝えしています。

先ほどお話ししたように、育児休業を対象者全員が取得することは、組織の成長を促し、営業や企画・アイデアにもプラス効果があります。立場や年齢に関係なく全員が取得することで、SDGsが掲げる「誰も取り残さない」を実現できますので、「できる人だけ」ではなく、「全員が取得する」という強い意思で推進することも重要だと思います。

ビジネスを広げることと、SDGsを推進していくことは同意義

──最後に。御社がSDGsの取り組みにおいて、いちばん大事にしていることを教えてください。

小谷 当社は住宅を通じて、エネルギー問題や廃棄物問題、少子化・高齢化対応など、住む人の悩みをなくし、社会課題を解決すべく事業を展開しています。つまり、SDGsがビジネスそのものですから、ビジネスを広げることとSDGsを推進していくことを同意義に考え、取り組みを進めています。

今後はさらなるイノベーションを起こすために、SDGsは「自分ゴト」であり「ビジネスチャンス」である、というメッセージを伝えるべく、発信にも力を入れていきたいと考えています。

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