2022年09月27日
「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」をテーマに、地域農業・地域社会づくりに取り組んでいる農業協同組合(JA)グループ。「存在そのものがSDGs」といい、食と農を基軸とした地域に根ざした協同組合として、社会的役割を果たしています。そんなJAグループのSDGsの達成に向けた取り組みについて、お聞きしました。
一般社団法人 全国農業協同組合中央会(JA全中) 広報部長 元広 菜穂子さん
──食と農に深く関わっているJAグループにとって、SDGsは切っても切れない関係です。近年、SDGsの概念が広がってきたことで、変化したことがあれば教えてください。
元広 JAは全国の農業に携わる人たちが集まり、お互いに助け合う協同組合です。JAグループが合言葉として掲げている「一人はみんなのために、みんなは一人のために」は、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない社会の実現」と合致しています。
「持続可能な食と農の実現」という同じ目的をもった個人や事業者同士が助け合ってきたJAグループは、存在そのものがSDGsで、これまで当たり前のように活動してきたので、「SDGs」であるとすら意識していなかった人が多いように思います。
そして、近年になってSDGsの概念が広がり、「SDGsの取り組み」としてアピールする企業や団体が増えてきたことで、「それなら、うちもやっている」「これってSDGsだったんだ」とあらためて認識を深めた組合員や職員が増えたと感じています。
「自分たちの存在や事業そのものがSDGsに直結している」と元広さん
──「あることが当たり前」は、食料問題にも通じる課題です。日本は先進国のなかでも、食料自給率が最低水準といわれているにも関わらず、危機感を抱いている人が少ないといわれます。持続可能な食と農のために、いま何がいちばん足りないと思いますか。
元広 「自分ゴト」として意識いただくことだと思います。もちろん、JAグループとしては、自給率をあげるために農業の担い手のニーズに応じた対応や、需要開拓、新たな担い手の育成をしていかなければいけません。しかし、消費者ひとりひとりが食料問題を「自分ゴト」として受け止めなければ、「どこか遠い国の話」で終わり、気がついたら取り返しがつかなくなってしまう危険性があると考えています。
──消費者が食料問題を自分ゴト化するために、JAグループで行っている取り組みがあれば教えてください。
元広 食や農に関する現状についての発信を強化しています。
そのきっかけになったのが、新型コロナウイルスの感染拡大でした。
コロナ禍で店頭からマスクが消えた時、人々はマスクを求めて長い行列をつくったり、ネットや店舗で高値で売られているマスクを購入したり、あらゆる手段でマスクを手に入れようとする人が増えました。この時は生産ラインが数カ月で整備できたことで、人々がマスクを入手できるようになりましたが、たとえば、農業生産においては、マスクと同じように「製造ラインをつくるので2〜3ヵ月待ってください」というわけにはいきません。
耕して栄養がある農地をつくり、農業従事者の育成をして収穫できるようにするには、10年20年という長期スパンが必要です。そこで、日頃から食について意識を高くもっていただき、「国内で農業生産するのが基本である」という意識を一人でも多くの人にもってもらおうと、「国消国産(こくしょうこくさん)の日」を制定しました。
──「国消国産の日」とはどのようなものですか?
元広 「国消国産」は、JAグループが提唱する、「国民が必要として消費する食料は、できるだけその国で生産する」という考え方です。
特設サイトを解説したり、YouTubeで発信を行ったりするなどして、「国消国産」という考え方を、食料を生産する側だけではなく、国民全体で認識共有できるよう努めています。
JAグループでは、アイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとコラボレーションし、
「国消国産」のPR動画も作成している
──連携やコラボレーションにおいては、どのようなことを意識していますか?
元広 同じ方向を向いている、というのはもちろんですが、その時だけではなく、長くおつきあいできるような企業や団体と連携するようにしています。
農業は、1日2日で解決できるものではありません。また、土地から離れられないという特徴もあります。地域で暮らしているみなさんと、持続的なおつきあいができるところと、しっかり連携していくことを心がけています。
──学校向けのSDGsワークブックも作っているとお聞きしました。
JAが制作した、学校向けのSDGsワークブック「SDGs探求ブック」
元広 次世代を担う子どもたちの教育は、持続可能な地域農業に欠かせません。
こうした観点から、JAグループは、読売新聞東京本社が運営している「くらしにSDGs」プロジェクトに参画し、小・中・高校の探究学習等で活用できるSDGsの視点から食・農を学べる副教材なども発行しています。身近な学校給食から、日本の米づくりや酪農生産の現場などを、子どもたちにもわかりやすくまとめています。
──SDGsの発信で、気をつけていることや意識していることを教えてください。
元広 一方的な発信にならないよう気をつけています。
たとえばコロナ禍で、学校給食向け牛乳が停止したことで生乳廃棄問題が起きた時は、JA全中のトップ・中家徹会長が「少し長くなりますが、聞いてください」と前置きをして、数年前に乳製品が足りなくなった背景から、丁寧にストーリー立てをして広くメッセージを発信しました。
その結果、多くのメディアに取り上げて頂いただけでなく、一般の消費者の間にも「みんなで牛乳を買って飲もう」というムードが盛りあがりました。
また、直接的に対話やコラボレーションをしていないスーパーやコンビニが「メディア発信を見て共感したから」と、独自に「商品を購入すると牛乳をプレゼントする」という取り組みをしてくれた店舗もありました。
今後も発信においては対話を重視し、さまざまな課題解決のきっかけを作れたらと考えています。
JAグループでは幅広い年代層に合わせ、さまざまな媒体形式で発信を行う
──一方的な押しつけではなく、双方向の対話で共感を集めることで理解と共感を集めているのですね。ほかに発信で工夫していることはありますか?
元広 幅広い世代に届くよう、さまざまな媒体形式でのコンテンツ発信をしています。
広くたくさんの方の目にとまるよう、SNSやホームページでの発信も行っていますが、JAの組合員さんは年齢の高い方も多いので、紙媒体も必ず作成しています。チラシや広報誌などを楽しみに待ってくださる方も多いので、今後も継続して取り組んでいきたいです。
──最後に、SDGsのゴール達成に向けてお考えをお聞かせください。
元広 SDGsのゴール達成は、私たちJAグループだけで実現できることではありません。対話を通じて共感を生むことで、さらなるムーブメントが起こせると信じ、これからも持続可能な食と農のために取り組んでいきたいです。