CSV経営の推進ツールとしてサステナビリティに取り組む星野リゾートの「勝手にSDGs」 企業のSDGs取り組み事例vol.50

2023年08月17日

SDGsをCSV経営の推進ツールと捉え、持続可能な企業競争力向上に活用している星野リゾート。「星のや軽井沢」での事例を中心に、同社のSDGsへの取り組みについてお聞きしました。

谷の集落に滞在する「星のや軽井沢」

SDGsはCSV経営推進のフレームワーク

──御社は早くから環境を重視し、SDGsへのさまざまな取り組みを進めています。まずは御社がSDGsに取り組むようになった背景から教えてください。

小泉 星野リゾートは、経済価値と社会価値を両立するCSV経営(※)を重視しており、CSV経営を促進するためのフレームワークとしてSDGsを位置づけ、さまざまな活動に取り組んでいます。

※CSV(CREATING SHARED VALUE)経営:企業が自社の事業や製品を通じて社会課題の解決に取り組み、社会価値と経済的価値を両立させることを目指す経営。米国の経済学者マイケル・ポーターが2011年に提唱した。

星野リゾートは、1914年に長野県中軽井沢に温泉旅館を開業したのが始まりですが、当時はまだ電気が通っていなかったため、1917年に木製水車による水力発電を開始し、1929年には日本で初めて本格的な自家用小水力発電所を開業しました。また、日本野鳥の会創設者である中西悟堂氏から「野鳥は食べて楽しむものではない。見て楽しむものだ。」という教えを受け、生態系の保全活動に尽力した結果、1974年に星野エリアに隣接する国有林が全国初となる「国設の野鳥の森」に指定され、その後エコツーリズムや環境経営にも取り組んできました。

このように「環境との共生」は創業時からの大きなテーマであり、星野リゾートの歴代の経営者は、事業を通じて課題解決に取り組んできました。いま振り返ってみると、これらの活動の多くがSDGsにも繋がっているため、「勝手にSDGs」と題してWEBサイトでご紹介しています。今後もSDGsのフレームワークに照らし合わせて振り返ることで、自社の強みや課題に気づくことができ、さらにCSV経営を推進できると考えています。

──なぜSDGsをCSRではなくCSVと位置づけてきたのでしょうか。

小泉 収益の一部を使って社会貢献するCSR(※)活動は、どうしても業績の好不調に左右されてしまいますが、CSVはそれに関わらず維持できるからです。

※CSR(CORPORATE SOCIAL RESPONSIBILITY):企業の社会的責任。企業は利益を追求するだけではなく、自社を取り巻くあらゆるステークホルダー(利害関係者)、社会全体に配慮した経営をするべきであるという考え方。

たとえば、私たちは以前からフードロス削減や伝統文化・工芸の継承などの活動に取り組んできましたが、CSVとして実践していたため、コロナ禍で業績が悪化した時も活動を継続することができました。需要減少により全国各地で余剰食材が発生しましたが、生産者の方々と手を組み、ミルクジャムやスイーツ等を開発・提供することで、フードロスを減らしながら、お客様に楽しんでいただける新たな魅力を誕生させることができました。

星野リゾート サスティナビリティ推進担当 小泉真吾さん

CSV経営としてSDGsに取り組むメリット


──「SDGsへの取り組みはコストがかかる」とネガティブな意見もあります。SDGsへの取り組みをCSV経営として捉えると、どのような効果があるのでしょうか。

小泉 短期的には通常よりもコストがかかる場合がありますが、中長期的にはむしろコストを抑えられたり、ブランド力向上に繋がる可能性もあると考えています。当社の「星のや軽井沢」の事例をご紹介します。

星のや軽井沢における自家用小水力発電所の開設や野鳥の森の保全などは、環境保護を優先し、コストの方が大きいと思われるかもしれませんが、CSV経営の観点でも成り立っています。

田中 1991年に星野温泉(星野リゾートの前身)の社長に就任した星野佳路は、翌年「リゾート運営の達人になる」という経営ビジョンを掲げ、経常利益率・顧客満足度・環境経営の3つの指標を設けました。

環境経営は、星野リゾートが自然と共生するために不可欠な3つの要素で構成されています。運営によって生じる廃棄物の焼却・埋め立てごみがゼロの状態を目指す「ゼロエミッション」、自ら使うエネルギーを可能な限り自給する「自然エネルギーの活用」、そして自然を守りながら持続的な観光資源として活用する「エコツーリズム」です。

現在、星のや軽井沢は、水力発電のほか、温泉排湯熱の暖房利用や省エネに繋がる環境建築を導入することで、施設で必要なエネルギーの約7割をエリア内で自給できています。燃料代節約の効果が大きく、初期投資は僅か1年10ヵ月で回収することができました。

また、ゼロエミッションにむけた取り組みが評価され、2003年のグリーン購入大賞(※)「環境大臣賞」をはじめとした数々の賞を受賞。星野リゾートのブランド力を高めることに繋がっています。

※グリーン購入大賞:環境負荷が少ない製品やサービスの優先的購入を推進する「グリーン購入ネットワーク」が主宰。"持続可能な調達"を通じてグリーン市場の拡大やSDGSの目標達成に寄与する取り組みを行う団体に与えられる。

豊かな水と緑の中にたたずむ客室

自然と共生するための3つの要素

──「ゼロエミッション」「自然エネルギーの活用」「エコツーリズム」それぞれの具体的事例とその効果・反響について教えてください。

「ゼロエミッション」でごみをゼロに

田中 はい。ではまず、「ゼロエミッション」からご紹介します。

軽井沢事業所では、ゼロエミッションを達成するため、1999年に「ゼロ委員会」を立ち上げました。「ゼロ委員会」ではごみを資源ととらえ、イントラネット上にある星野リゾート資源分別ゲーム「シゲカツ」などで日常の3R活動(※)を推進するなど、楽しみながらSDGsへの取り組みを推進しています。

※3R活動:REDUCE(リデュース:ごみとして廃棄されることが少なくなるようにものを製造・加工・販売すること)、REUSE(リユース:使用済みのものを廃棄せず再利用すること)、RECYCLE(リサイクル:廃棄されたものも再生資源として再活用すること)の、3つのRに取り組む施策。

また、披露宴で提供する料理を、和食か洋食、肉か魚で当日選択できるようにしました。当日の気分や空腹具合で注文ができるため、食べ残しが減り、生ごみの軽減だけでなく、顧客満足度向上や婚礼事業の競争力強化にもつながりました。

星のや軽井沢 広報 田中郁未さん

──御社では、活動の開始当初からリゾート運営事業につきものの「アメニティごみ」削減にも取り組んでいます。これも「ゼロエミッション」にむけた取り組みですか?

小泉 はい、そうです。軽井沢事業所では、2011年にホテル業界として初めてゼロエミッションを達成しました。そして、2019年からはそのほかの宿泊施設でも順次ソープ類の個包装をやめ、国内全宿泊施設でポンプボトル式への変更が完了しています。さらに、2020年からは客室でのペットボトル入りウォーターの提供を順次廃止し、2021年に国内全宿泊施設で提供を終了しました。

田中 ここで私たちは、活動へのご理解やご協力をお願いするだけでなく、お客様にとって魅力に感じていただけるポイントを可能な限りお伝えするようにしています。例えば、星のや軽井沢の水道水は浅間山麓水系の伏流水を引いており、飲料水としても大変美味しく召し上がっていただけます。そのため、「環境負荷の低減のためにペットボトルがなくても我慢してください」ではなく、「環境に配慮しながらも、ぜひ浅間山麓水系の伏流水を楽しんでいただきたい」といったようにお伝えすることで、お客様の満足度向上や施設のブランディングに繋げています。

ペットボトルではなくウォータージャグを提供することで、よりよい顧客体験を創出

「自然エネルギーの活用」で環境負荷軽減と利益を両立

──なるほど。では「自然エネルギーの活用」は、どのような効果があるのでしょうか。

小泉 リゾートにおいては、自然環境や土地の歴史そのものが貴重な資源となります。そこで星のや軽井沢では、環境に最低限の負荷しかかけないエコロジカルなリゾートにしようと「EIMY(エイミー:Energy In My Yard)」(※)というコンセプトを設定。自ら使うエネルギーをできるだけ自給することで、環境への負荷を最小限にとどめながら、環境と共生したリゾート運営を目指してきました。

※EIMY:東北大学名誉教授の新妻弘明氏が提唱した社会システム。地域にあるエネルギーを、技術的・経済的に許す限り、最大限地域のために利活用することを目指す。

田中 星のや軽井沢の前身である星野温泉旅館では、敷地内を流れる川を利用した水力発電を行うことで、電力の約8割を自給してきましたが、暖房、給湯に必要なエネルギーの多くは灯油に頼っている状態でした。

そこで星のや軽井沢の開業にあたり、EIMYの考え方に基づいて、旧来の水力発電に加え、温泉排湯熱と地中熱を組み合わせ、ヒートポンプで活用する仕組みを導入しました。建築面でも自然エネルギーを活用し、環境への負荷軽減と利益、顧客満足を同時に成立させています。

「エコツーリズム」は専門の部署で事業を展開

──「エコツーリズム」も環境を保護しながら収益につなげていく活動でしょうか。

小泉 「エコツーリズム」はもともと、自然資源の損失を最小限にとどめ、持続的に観光活用する仕組みとしてスタートした取り組みです。

1992年にスタートした野鳥研究室は1995年に「ピッキオ」という名称に変更。エコツーリズムを行なう専門の部署として、事業を展開しています。

田中 ピッキオの具体的な事業内容は、自然の不思議を解き明かす「エコツアー」と「環境教育」、ツキノワグマ保護管理事業をはじめとする「野生動植物の調査および保全活動」です。

ツキノワグマ保護管理事業は、「人の安全」と「クマを絶滅させないこと」の両立を目指した取り組みです。この活動により、1999年頃に年間100件を超えていたクマによって公共ゴミ箱が荒らされる被害は、2009年には0件になりました。

過去20年にわたり、地域住民の安全な暮らしに貢献してきたピッキオの取り組みは、欧米を中心とする海外でも注目され、近年は海外の学生がインターンシップに訪れるほど、注目を集めています。

軽井沢を拠点に野生動植物の調査研究および保全活動を行う「ピッキオ」

──最後に、SDGsが目指す2030年のゴール達成に向けて、今後の目標や展望についてお聞かせください。

小泉 星野リゾートとしては「今後もCSV経営の観点を重視し、事業を通じて地域が抱える課題解決に貢献する」という方針は変わりません。ただし、地域が抱える課題は地域によってさまざまです。そのため、その土地に暮らし、地域の魅力や課題を理解している各施設のスタッフの問題意識やアイデアを大切にしながら、今後も私たちだからこそできる活動を展開していきます。そして、国内外に全68施設を展開しているスケールメリットを生かし、各施設で得たノウハウはグループ全体でシェアしながら、さらに活動を推進していきたいと考えています。

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