再生可能エネルギーによるローカルSDGsの実現|SDGsと地域活性化【第4回】

2021年08月04日

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SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


再生可能エネルギーの導入は、直接的には、SDGsのゴール7「手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」に位置づけられます。しかし、それだけではありません。再生可能エネルギーは、気候変動、生物多様性といった環境問題の解決、そして経済のてこ入れや雇用創出、地域活性化にも貢献します。
今回は、再生可能エネルギーがローカルなSDGsの実現に貢献する可能性を解説します。

再生可能エネルギーは、時代の写し鏡

再生可能エネルギーは、地球に降り注ぐ太陽エネルギーをもとにしているため、再生可能で、地球のいたるところにあります。太陽光発電、太陽熱利用はもとより、風力発電、水力発電、バイオマス利用はいずれもが太陽エネルギーが源になっています。
石油や石炭、天然ガス等が普及する以前、調理や灯とり、暖房に使われたエネルギーは、薪や炭等のバイオマス、すなわち再生可能エネルギーでした。エネルギーの主流は石炭、石油といった化石燃料が中心になり、再生可能エネルギーは使いにくい、市場価値の劣るエネルギーとして、利用が放棄されてきました。
しかし、再生可能エネルギーは1970年代以降、3つの段階を経て、価値づけがなされ、技術開発と普及施策が進められてきました。
3つの段階の最初は1970年代の2度のオイルショックです。石油への依存を高めていた産業は生産機能を失い、高度経済成長が停止した大きな出来事により、エネルギーセキュリティ(自給率)の確保が政策課題となり、省エネルギーの促進とともに進められたのが、石油に替わるエネルギーの開発です。
2つめの段階は1990年代の気候変動問題の台頭です。1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会合」において、「気候変動枠組条約」が示され、気候変動問題は科学者の問題提起から、国際政治のテーマになりました。これを契機に、大気中の二酸化炭素を増やさないエネルギーとして、再生可能エネルギーの普及促進が価値づけられました。
3つめの段階は2010年代です。2011年の東日本大震災と、それに続く福島原発事故により、災害時の安全・安心の確保、あるいは被災地の復興における産業創出・雇用拡大の観点から、再生可能エネルギーが国策として、重視されてきました。
このように、市場価値の劣るエネルギーとして衰退した再生可能エネルギーは、時代の変遷とともに、エネルギーセキュリティー、気候変動防止、災害時の安全・安心等といった価値を付加され、注目されてきました。SDGsのゴールでいえば、ゴール7以外に、ゴール8の産業基盤、ゴール11の住み続けられるまちづくり、ゴール13の気候変動といった目標を達成する手段として、再生可能エネルギーが位置づけられてきたわけです。

岡山県西粟倉村のコンベンションホールに屋根上に設置された発電所

岡山県西粟倉村のコンベンションホールに屋根上に設置された発電所(2014年3月発電開始)

FIT以降の再生可能エネルギーの普及拡大

東日本大震災後の2012年7月から、再生可能エネルギーの本格導入を図るために、スペインやドイツ等で先行的に実施されていた固定価格買取制度(FIT)が日本でも開始されました。電気事業者は、再生可能エネルギーで発電された電気を、政府が決めた価格で買い取ることが義務づけられました。
再生可能エネルギー発電事業では、FITにより初期投資を売電収入で短期間に回収することが可能となります。事業採算性が高まったことから、太陽光発電を中心として、再生可能エネルギーの飛躍的な普及が始まりました。普及が進行すると、量産効果により設備価格が低下し、買い取り価格を高く設定しなくとも、再生可能エネルギー発電の市場での自走が始まるというのがFITの狙いです。
その後、系統接続(送電等の容量の制約)の問題、賦課金(買取価格を消費者から徴収する仕組み)の増加等もあり、FITの買い取り価格が下げられてきました。2021年4月からは、再エネ特措法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)が改正され、FITに加えて、新たにFIP制度(再生可能エネルギーの電気に市場価格をふまえて一定のプレミアムを交付する仕組み)が創設されます。こうした制度や技術の詳細は、資源エネルギー庁のホームページの解説等をご覧ください。

とにもかくにも、日本の再生可能エネルギーによる発電量及び全体のエネルギー供給量に占める比率は、2010年代に飛躍的に増大してきました(図1)。既に、再生可能エネルギーの発電設備容量は中国、アメリカ、ブラジル、ドイツ、インドに次いで6番目、太陽光発電だけでみれば、中国、アメリカ、ドイツに次いで3番目に多くなっています。今後は、気候変動防止のためのカーボンゼロ社会を目指すために、再生可能エネルギーの導入はますます活発化していくことになります。

日本の再生可能エネルギーによる発電量

図1 再生可能エネルギーの国内供給量の推移
※資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成

再生可能エネルギーによるローカルSDGs

FITの導入により、大資本による大規模な太陽光発電(いわゆるメガソーラー)の設置が進みました。これらの多くは、地域からみれば、地域外部の大企業による大規模開発であり、地域住民や地域企業との関わりが弱く、地域課題解決に役立つような恩恵が弱い傾向にあります。
しかし一方で、FITによる再生可能エネルギーによる発電事業の採算性の向上は、地域の事業者や住民による発電事業への参入を促すことにもなりました。
多くの市民が出資して行なう再生可能エネルギーの発電事業のことを市民共同発電といい、2010年には400ヵ所弱でしたが、2017年には1000ヵ所を超えました。市民共同発電は、地域による地域のための事業を狙いとするもので、地域の持続可能な発展(すなわち、SDGsの達成)に貢献しようとするものです。
地域主導の再生可能エネルギー事業によるSDGsヘの貢献の全体像を表1にまとめてみました。

表1 地域主導の再生可能エネルギー事業によるSDGsへの貢献例

地域主導の再生可能エネルギー事業によるSDGsへの貢献例

このうち、環境面以外で重要な2つの点について考えてみます。
1つめは、再生可能エネルギーによる地域経済への効果です。これには、次のように多様な側面があります。

  1. 再生可能エネルギー事業による雇用創出効果
  2. 再生可能エネルギーに係る設備投資効果・維持管理効果
  3. 再生可能エネルギー利用によるエネルギーコスト削減
  4. 再生可能エネルギー電力等の移出効果(地域外から地域内への資金流入)
  5. 地域内調達による地域外からのエネルギーの移入代替効果
  6. 地域の環境・エネルギー配慮消費を行う消費者による関連商品の購入増大
  7. 地域における再生可能エネルギー技術の革新と地域産業の振興
  8. 再生可能エネルギーに取り組むことによる地域の付加価値

特に重要なことは、4の移入代替効果です。地域で消費される電力代金は、例えば1人当たりの電気代を年間3万円とすると、人口1万人の地域では年間3億円、10万人の地域では年間30億円の電気代が支払われ、地域外の電気事業者に流出していきます。つまり、それだけ地域のお金が外に漏れているわけです。再生可能エネルギーによるエネルギーの地産地消が実現すれば、電気代は地域に留まり、地域内の経済循環となっていきます。
2つめは、再生可能エネルギーが地域力を高める効果です。再生可能エネルギーは地域のどこにでもあり、地域主導・市民参加で作ることができるエネルギーです。これまで、外から供給され、それに頼るしかなかったエネルギーを、自分たちで考え、自分達でつくることができるわけです。地域住民にエネルギーに対する意識が高まり、再生可能エネルギー事業を通じて、地域の住民、行政、企業等のパートナーシップが強まっていきます。こうした「エネルギー自治」が形成されることによる地域力の向上が、地域主導の再生可能エネルギー事業によるSDGsへの貢献として重要な点です。

再生可能エネルギーによる新たな環境問題

再生可能エネルギーは本来的に地域活性化に貢献するものですが、作り方や使い方が悪いと地域環境に悪影響をもたらす場合があります(表2)。2050年にカーボンゼロを目指し、再生可能エネルギーの普及を加速させなければならないわけですが、野放図な再生可能エネルギーの開発が地域の生活環境を破壊するというトレードオフが生じます。

表2 再生可能エネルギーによる新たな環境問題の例

再生可能エネルギーによる新たな環境問題の例
これまでも、マイナスの影響を軽減するため、設備の立地におけるアセスメントの導入、あるいは設備設計・設置・運用における配慮ガイドラインの提供が行われてきました。一部の地方自治体においては、国のアセスメント制度の対象外となる比較的小規模な再エネ設備に対するアセスメントや開発許可制度等の導入を図ってきました。
2021年には「地球温暖化対策の推進に関する法律」の一部が改正されました。これにより、地方自治体は、地方公共団体実行計画(地域における地球温暖化対策の計画)に再生可能エネルギーの普及目標を追加するとともに、その目標を達成する再生可能エネルギーの設置エリアを定めることになりました。

事例:エネルギーと福祉を地域で賄う

再生可能エネルギーによる地域活性化では、「誰も取り残さない」という観点が重要です。特に、再生可能エネルギーと福祉を統合させる取り組みが大事ですが、その実践例として滋賀県湖南市の取り組みを紹介しましょう。
湖南市は、県立の障がい者施設が立地する福祉の町でしたが、全国で初めて1997年に市民出資による太陽光発電所(市民共同発電所)を設置した地でもあります。この市民共同発電所は、障がい者の共同作業所の屋根上に設置されました。障がい者の共同作業所の所長は「エネルギー、福祉ともに、小規模な手段の方が多機能で柔軟に対応できる。汗水たらしながら働き、水平的な関係で助け合う双方向性が大事である」という考えから、発電所の設置を受け入れました。
再生可能エネルギーへの取り組みが諸問題の解決のいずれかに貢献するということではなく、持続可能な社会のあり方に関する根本の点が一致し、再生可能エネルギーへの取り組みと福祉の取り組みが統合したのです。
このニッチなイノベーションが湖南市のその後の地域づくりの基盤となりました。2010年代以降、湖南市は「環境と福祉のまち」を標榜し、再生可能エネルギーを活かす地域づくりを福祉につなげる取り組みが展開されてきています(表3)。「こなんイモ・夢づくり協議会」によるイモ発電は、発電量が小さくとも、サツマイモの栽培から多くの人の関わりが可能であり、農業・福祉・エネルギーをつなぐまちづくりとして期待されています。

表3 滋賀県湖南市における再生可能エネルギーと福祉の統合に関する取り組み

滋賀県湖南市における再生可能エネルギーと福祉の統合に関する取組み

「なんてん共働サービス」の屋根上の市民共同発電「てんとう虫1号」

滋賀県湖南市に設置された日本発の市民共同発電「てんとう虫1号」
※滋賀県湖南市より提供

今回は、再生可能エネルギーがエネルギーや気候変動といった環境目的だけでなく、地域の経済面、社会面のSDGsの達成に貢献することを取り上げました。1つのゴールに位置づけられる取り組みを、他のゴールに関連づけて、統合的に実践していくことが大事です。
再生可能エネルギーは、地域主導で活用していくことができる資源です。自立と共生を基調とした地域づくりを地域主導で進めていく道具として、これを活かしながら多面的に展開していくことが期待されます。

次回は、「気候変動への適応策」をSDGsの観点から整理し、解説します。適応策は、緩和策とともに、気候変動に対するもう1つの対策といわれるものです。

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SDGsの基礎知識