2021年08月19日
昨今、認知度や関心が急激に高まり、もはやビジネスにおいて無視することのできないキーワードと言われる「SDGs」。関心のある生活者の割合、そして関心が高い生活者とは、どのようなユーザーなのでしょうか。株式会社ビデオリサーチの生活者データベース「ACR/ex(エーシーアール・エクス)」をもとに、紐解いてみました。
文/株式会社ビデオリサーチ マーケティングソリューション部 シニアエキスパート・吉田正寛
ビデオリサーチでは、無作為に抽出された全国(主要7地区)約1万人を対象に、約1.5万の項目の調査を行なった生活者データベース「ACR/ex」を保有しています。ACR/exは男女12~69歳を調査対象として、性年代の構成比を当該エリアの人口構成比に合わせて実施しています。
ビデオリサーチの生活者データベース「ACR/ex」の概要。東京エリアを中心に、関西地区・名古屋地区・北部九州地区・札幌地区・仙台地区・広島地区(主要7地区)の計1万人超を対象に行なった、調査結果のデータを分析・活用することができる
ACR/exの調査結果の中には、「環境・社会活動」に関する項目が存在します。
まずはその結果から、生活者のSDGs(主に環境や社会活動)への意識を探ってみましょう。以下は、2020年10~12月に東京50km圏の方に向けた調査の結果です。
ACR/ex日常生活意識「環境・社会活動について」の調査結果(東京50km圏、2020年10~12月、男女12〜69歳)
項目は多岐にわたりますが、どれも環境や社会にまつわるものですから、すべてSDGs文脈の設問と言えます。しかし調査項目(内容)によって、人々の関心度合いは大きく異なります。
地球規模の大きな環境テーマについての関心者は、およそ40%前後です。
・「地球の自然環境に強い関心がある」/はい 45.0%
・「エネルギー問題(太陽光・風力・原子力・バイオマスなど)について強い関心がある」/はい 39.1%
一方で、実生活に根ざした調査項目については、6割以上が「はい」と回答しています。
・「無駄な電気を使わないなどの省エネに取り組んでいる」/はい 64.2%
・「環境のためにマイバッグやエコバッグを使うようにしている」/はい 65.5%
このことから、およそ3人に2人は、「環境に配慮した生活を送っている」ことがわかります。
なお、本調査よりあとに、「電通Team SDGs」が全国10~70代の男女計1400人を対象に行った、第4回「SDGsに関する生活者調査」(2021年1月22~25日)によれば、「生活者のSDGs認知率は54.2%」とあります。この調査結果との間にある「約10%のズレ」を踏まえて考えると、「SDGsを知らない状態で、実はSDGsアクションをしている」生活者が全体の1割程度存在していると捉えることもできそうです。
しかし、環境問題や社会問題との関与を深化させた調査項目については、途端に「YES」と回答した人の割合は下がり、10%~15%程度という結果となっています。
・「環境保護やボランティア活動に積極的に関わるほうだ」/はい 11.4%
・「チャリティー活動に強い関心がある」/はい 15.0%
SDGsアクションへの両極端な調査結果から見えてくるのは、多くの生活者は、身近で、取り組みのハードルが低く、かつリターン(節約など)のあるSDGsアクションについては、積極的に行っている傾向にある。しかしボランティやチャリティーなど、参加ハードルが高く、かつリターンのないSDGsアクションについては、消極的な傾向にあると推察することができます。
しかし見方を変えれば、生活者の1割以上がSDGsに対して、非常に高い関心を抱いている、と捉えることもできますから、SDGsをフックに、どの層とつながりたいかによって、企業はアプローチを変えることが必要だと言えるでしょう。
また、さらにこの関心度の濃淡を紐解くならば、「自分ゴトにしやすいか?」どうかが、非常に重要なファクターになっている可能性があります。企業が生活者に対して、SDGs文脈での発信を行う際には、いかに「自分ゴト」として捉えてもらえるように発信するかが、カギとなりそうです。
次に、「環境・社会活動(SDGs)」に関心がある層のユーザー像について、データをもとに分析してみましょう。
以下は、先ほど関心度を調査した「環境・社会活動について」のそれぞれの項目で、「はい」と回答した人の性年代構成をグラフ化したものです。
ACR/ex日常生活意識「環境・社会活動について」の、それぞれの項目で「はい」と回答した人の性年代構成(東京50km圏、12〜69歳、男女)
仮に、10代〜30代を若年層、40代〜60代を中年層とすると、SDGsに関心がある層は、中年層の方が構成比は高い傾向にあります。特に60代では、男女とも、各項目で構成比が他の年代よりも高いことがわかります。
一方で、傾向とは真逆の、興味深い結果がありました。
・「環境保護やボランティア活動に積極的に関わるほうだ」
・「チャリティー活動に強い関心がある」
の2項目です。これらの関心者の構成をみると、女性10代の構成比が目立って高く、関心者の約1割は女性10代であることがわかります(赤枠部分)。
さらに、さきほどもご紹介した、「電通Team SDGs」が行った第4回「SDGsに関する生活者調査」(2021年1月22~25日)によれば、10代のSDGs認知率は7割を超え(10代男性75.9%、10代女性72.2%)、全年代でもっとも高かったとあります。
この結果も考慮するならば、10代の女性はSDGs認知率が高く、かつハードルの高いSDGsアクションについても積極的に取り組みたいと考えている、と言えそうです。
では、そんなボランティアやチャリティー(ハードルの高いSDGsアクション)に関心がある10代女性とは、どんな人物なのでしょうか?
「環境保護やボランティア活動に積極的に関わるほうだ」「チャリティー活動に強い関心がある」のいずれかで、「はい」と回答した10代女性の特徴を、普通の10代女性と比較することで浮き彫りにしてみたいと思います。
ACR/exでは、約2000項目の意識項目(日常生活意識やメディア意識、商品関与や趣味など)を捕捉しています。この中から、ボランティアやチャリティーに関心がある10代女性と、特に条件を設けない一般の10代女性でスコア差が大きい項目をピックアップすることで、一般の10代女性との違いを見ていきます。
ボランティアやチャリティーに関心がある、10代女性に特徴的な意識項目一覧 ※()内の数字は10代女性一般のスコア
この結果を見ると、ボランティアやチャリティーに関心がある10代女性は、一般の10代女性よりも、すべての項目において意識が高いことがわかります。具体的には、おしゃれで、トレンドに敏感。社交的で美意識が高く、スポーツだけでなく文化的な趣味を持ち、海外や最新情報への感度も高いと言えます。
彼女たちにとって、SDGs(またはサステナブルな商品など)に関心を持つことは、「流行の最先端でカッコいい」と捉えている可能性がこの結果から浮かび上がってきます。
その背景には、海外セレブを中心に、以前からSDGsへの関心が高まっており、彼らがそうした考えを積極的に発信していることも影響しているのではないでしょうか。ファッションや生活様式で若年層に影響力を持つセレブ層の姿を見て、自分たちも真似するようになったと考えれば、納得もいきます。
多くの大人たちは現在、深刻な「社会問題」として、SDGsを重く受け止めています。しかし今回の分析結果から、実は10代女性にとってのSDGsは、もっとカジュアルでファッショナブルなキーワードとして、捉えられている可能性が示唆されました。
この認識のギャップを知ることは、適切なSDGs発信につながるはずです。「SDGsなのだから、真面目でなければいけない」という思い込みを捨て、おしゃれでファッショナブルに情報発信する方が10代女性には届く可能性は高まります。
今回ご紹介した「ACR/ex」をベースにしたデータ分析が、皆さまのSDGsコミュニケーション活動の参考になれば幸いです。
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筆者プロフィール
吉田正寛(よしだ・まさのぶ)
株式会社ビデオリサーチ ソリューション室マーケティングソリューション部 シニアエキスパート
2008年(株)ビデオリサーチ入社。主にメーカー等の広報・宣伝担当部署から、広告会社や媒体社営業担当部署をクライアントに、広告活動のプランニングや広告効果測定をコンサルティング、メディアの広告役割の観点から、次期広報・宣伝施策を第三者の立場でサポート。広告メディア・コンテンツ別にある固有の役割に関する研究を継続中。