2021年12月24日
SDGsと一緒に語られることも多いESGという言葉。共通項の多いSDGsとESGですが、ESGは企業や投資家に向けられたもので、SDGsとは用いられる文脈や対象が異なります。ただ、ESGを理解することは、より深くSDGsを理解することにもつながりますので、本記事ではESGの基礎知識と、そこから連なるESG投資、ESG経営などのキーワードについてもご紹介します。
ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の3つの単語の頭文字を並べた言葉で、いま企業が取り組むべき課題であり、持続可能な経営手法に変えていくための考え方です。まずはそれぞれの要素を具体的に紹介していきましょう。
Environment(環境)は、温室効果ガスの排出量削減、海洋プラスチックごみ対策や水質汚染対策、森林破壊や生物多様性への悪影響に関する対応、再生可能エネルギーの活用など、さまざまな環境課題のことを指します。
Social(社会)は、ジェンダー格差の撤廃や労働者の権利の保護、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスの確保、児童労働の撲滅など、社会全体で解決していかなければいけない問題のことを指します。
Governance(ガバナンス=企業統治)は、企業の業績や評判を悪化させる不祥事などを回避するための法令順守(コンプライアンス)の姿勢や情報開示の透明性、取締役会の多様性、リスク管理体制の構築など、企業が行うべきことを指します。
ESGに明確な定義はなく、SDGsのように世界共通の判断基準があるわけではありません。3つの観点からなる要素はそれぞれ無数にあり、絶えず変動していくものといえるでしょう。
大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システムによって、私たちは便利で豊かな生活を手にしてきました。しかしその経済システムによって起こる環境破壊や人権侵害、企業統治の面などの問題は後回しにされてきました。地球に大きな負荷をかけ、貧困やジェンダーの不平等の問題は解決されていません。このまま経済活動のために環境破壊や社会問題の放置を続けていれば、持続可能な成長は難しいという考えが広まってきたのです。
2006年、当時の国連のアナン事務総長は世界の大手機関投資家に対し、責任投資原則(PRI)の策定作業への参画を要請しました。署名した機関投資家(顧客から預かった資金を運営する法人)は、投資のプロセスにおいて財務情報に加えて、ESGの要素を考慮した責任投資を行うことが求められるようになりました。
そしてその後2008年に起きたリーマンショックの反省から、短期的志向ではなく長期的かつ持続的な投資、ESG投資が注目されるようになったのです。
日本でESGという考え方が浸透するようになったのも、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名したことがきっかけとなっています。GPIFは公的年金を運用する組織で、運用資産額が180兆円を超える(2020年度末)世界最大級の機関投資家です。
GPIFが積極的にESGに取り組む姿勢を見せたことで、多くの日本の機関投資家も続いて署名をするようになりました。現在では投資判断の基準としてESGを考慮する投資家や、ESGに取り組む企業が増えてきています。
SDGsは、2015年に国連サミットで採択された世界共通の目標です。17の目標と169のターゲットから構成されるゴール(目標)で、地球上の「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」ことを誓っています。国、企業、NPO、個人まですべてが協力して、経済・社会・環境の3つのバランスがとれた社会をめざすものです。
一方ESGは企業が取り組むべき課題で、企業の経営方針の判断基準であり、投資家が投資する企業を選ぶときの判断基準でもあります。
SDGsとESGは目標か課題かという視点の違いや、すべての人か企業・投資家かという対象の違いなどがありますが、内容では相互に関わり合っています。
環境問題や経済、社会問題が複雑に関わるグローバル社会では、先進国、途上国を問わず価値観を共有し、相互発展のために協働していくことが不可欠です。SDGsの目標17では「パートナーシップで目標を達成しよう」と表現されていますが、ESGは投資家と企業がよりよい発展を目指すパートナーシップといえるでしょう。
ESGの考え方が広まれば、環境や社会にやさしいモノやサービスをつくる責任を果たしている企業、再生可能エネルギーの研究開発を進めたり、利用している企業などに資金が集まることになります。これは、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」とも関わってきます。
またSDGsの目標05の「ジェンダー平等を実現しよう」については、ESGにおける課題がこのゴールを達成するためのプロセスとなっています。
企業がESGを重視して経済活動を行うことは、結果としてSDGsの目標達成につながっていきます。SDGsは世界共通のゴールで、ESGはSDGsを達成するための手段といえるのです。
SDGsとESGの項目は共通するものが多く、企業がESGの課題に取り組めば、SDGsの達成につながります。ESGへの投資で資金が集まれば、資金の面でもSDGsに貢献することができます。
ただ、問題点もあります。一見SDGsやESGに配慮しているように見せながら実態が伴わない、いわゆる「グリーンウォッシュ」や「ESGウォッシュ」は最大の問題でしょう。自社の事業における適切な解決策が見つけられないのに無理にESGを取り入れてしまった結果、ESGウォッシュになってしまうケースも多いようです。また、SDGsもESGも長期的なテーマであり、資金に余裕がない企業は取り組みにくいという側面もあります。
ESG投資は、ESG(環境・社会・企業統治)の観点から企業を評価し、投資する企業を選択する投資方法のことです。
ESG投資が注目される以前の投資は、簡単にいえば儲かっているかどうかという財務情報が判断基準となることが一般的でした。しかしSDGsの達成を目指す今、従来の基準のみでは不十分という考え方が広がっています。そこでESGに配慮し、どれだけ社会的な価値を創出したり社会に貢献できているか、という非財務情報も注目されるようになったのです。
いま投資家の間では、投資する企業を選択する際、「どのようにSDGsに取り組んでいるか」「SDGsの取り組みによってどのような成果をもたらしているか」などの視点も判断基準として重視されています。
ESG投資のメリットとして、まずは長期的な資産形成に向いていることがあげられます。自然環境や経済状況の変化、人権やジェンダーなどの価値観の変化、法規制の変更など、社会の変化が大きい昨今、ESG投資によってこれらのリスクへの対応力を高める効果があります。
もうひとつが、ESG投資は社会に貢献するということです。ESGに配慮した企業に投資することで、投資家も社会の課題解決に貢献することとなります。
ESGは長期的な資産形成に向く一方で、儲かるかどうかのみが判断基準ではないため、短期的なリターンは小さくなりやすい傾向があります。
また、財務情報のほかにESGの要素も調べたり分析したりする必要があるため、投資先を選ぶのに手間や時間がかかってしまうことも課題となっています。
ESG経営は、環境、社会、ガバナンスに関わるさまざまな問題を解決しながら、持続可能な経済成長を目指す経営を指します。
投資家から見たメリットとも重なりますが、企業を取り巻く環境の変化は大きく、本来の活動以外に何もしなければ想定外の影響を受けてしまうことも出てきます。社会的責任を無視した経営は、それ自体がリスクとなる可能性もあるのです。ESG経営は、さまざまなリスクを回避する効果があるともいえるでしょう。
さらに環境や社会問題の解決に貢献するビジネスモデルを構築することは、企業の新たな価値を生み出し、利益だけでなくブランドイメージの向上や優秀な人材の確保にもつながります。
ESG経営において欠かせない要素が環境問題への取り組みです。温室効果ガスの排出量を抑えているか、再生可能エネルギーや再生資源の利用を進めているか、海洋プラスチックごみ対策を行っているかなどが代表的な課題です。業種に関わらず、地球に負荷をかけたままでは持続可能な経済活動は困難になっています。
また企業の運営において、ダイバーシティに取り組むことも重要課題です。人種や国籍、年齢や性別など多様な人材や考え方、働き方を受け容れて活かすことは、組織の生産性や競争力を高める経営戦略としても認識されています。長時間労働や、正規雇用者と非正規雇用者の明らかな不平等が起きていないかなどの労働環境への配慮も必要です。
またコーポレートガバナンスは、上記の環境問題や社会問題に対処するうえで前提となるものです。信頼性を保つため、公正で透明性のある組織の構築が求められます。
ESGは明確な定義や指標が存在しないため、何から手をつけていいか分からない、目標をどこに定めたらいいか分からないといった悩みが多く存在します。また短期的な成果だけでは判断できないことも、ESG経営を難しくする要因です。自社にとっての重要課題が何か、自社の事業とESGの接点はどこか、取り組みを進めていきながら最適な道を探っていくことが必要となってくるでしょう。
積極的なESG活動が国内外で高く評価されているのが花王です。1990年代から環境に配慮した包装容器を開発するだけでなく、触っただけでシャンプーとリンスを区別できるように「きざみ」をつけた容器の開発に代表される、すべての人にとって使いやすい製品を届ける「ユニバーサルデザイン」の取り組みを行っています。
プラスチック包装容器については、植物由来のプラスチックの導入を進めながらつめかえ・つけかえ用製品によるプラスチック使用量の削減や製品のコンパクト化に取り組んでいます。2019年には、消費者にも注目されつつある持続可能な暮らしを「Kirei Lifestyle」とし、それを実現するためのESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を策定。生活者の目線に立った取り組みを進めています。
ESGに対する取り組みの長期目標として「 サステナビリティビジョン2050」を策定しているのが積水ハウスです。長期ビジョンの達成のため、2020~2022年ではESGの13項目の重要テーマをSDGsの17のゴールに関連付けて目標設定し、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいます。
たとえば環境課題においては、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の深化と、拡張持続可能な木材調達や生態系に配慮した植栽などを実施。社会課題においては、女性活躍推進や多様な人材活躍支援などによるダイバーシティの推進に注力しています。
ここまで、ESGの意味やSDGsとの関わり、ESG投資、ESG経営などについて紹介してきました。企業がESGに取り組むことによって環境や社会の課題を解決できれば、SDGsの達成につながります。ESG投資が広がれば、投資を得るために企業は取り組みを強化し、企業にさらなる資金が集まります。そして、ESGに取り組む企業に注目し、その商品やサービスを選ぶのは消費者です。
ESGは、企業と投資家、消費者が一緒になって環境と社会、経済に好循環をもたらすための、重要なキーワードといえるでしょう。