森林セラピーによる都市との連携・長野県信濃町|SDGsと地域活性化【第3部 第4回】

2023年01月26日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
武蔵野大学工学部環境システム学科で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきか、先進都市の事例から解説します。


森林セラピーとは、「森の持つ力を活かし、心と体の健康維持・増進、病気の予防を行う試み」のことをいいます。森の中で五感体験を通じて、人間が持つ心身の治癒力(レジリエンス)を高めることともいえます。

日本の森林セラピーは林野庁の事業としても全国に広がり、全国65ヵ所に森林セラピー基地(あるいは森林セラピーロード)が誕生しています。今回は、森林セラピーをいち早く立ち上げ、現在もまた先駆者であり続ける信濃町を紹介します。

信濃町は、長野県北端に位置し、妙高山、黒姫山、飯綱山・戸隠山、斑尾山と北信五岳といった山々に囲まれ、風光明媚な盆地帯にあります。観光資源としては、ナウマンゾウが生息した野尻湖、黒姫高原、斑尾高原などの自然資源とともに、小林一茶の遺跡、牧場や童話館などがあります。総人口は8,000人を下回りますが、古くから保養地として交流人口・関係人口が多い、魅力的な地域です。

黒姫高原(しなの町Woods-Life Community提供)

森林セラピーとは

森林セラピーを詳しく説明します。
林野庁は、森林の持つ多面的機能として、(1)生物多様性保全、(2)地球環境保全(気候変動防止)、(3)土壌災害防止・土壌保全、(4)水源涵養、(5)保健・リクリエーション、(6)快適環境形成、(7)文化・教育、(8)物質生産といった8つの機能を示しています。

森林セラピーは、このうちの保健・リクリエーション機能を活用するものです。さらに細かくいうと、森林の保健・リクリエーション機能は、療養(リハビリテーション)、保養(リフレッシュ、休息、森林浴)、リクリエーション(行楽、スポーツ)に分けられます。森林セラピーは療養目的で行われることもありますが、主に保養を中心とするものであり、病気になった後の治療ではなく、病気になる前(特に、未病:病気一歩手前の状態)での予防を狙いとしています。

人の本来の居場所ではない都市に暮らし、効率や結果を求められる経済活動に従事することで、人はストレスを感じ、本来的に持つ心身の力を損ない、免疫機能が低下しがちです。この心理的・生理的な問題を解消するために、森林の持つ保養機能を引き出し、体験してもらうように用意されたプログラムが森林セラピーです。

日本では、林野庁が1982年に「森林浴」を提唱し、森林浴ブームとなり、この流れを受けて森林セラピーが2004年に提唱されました。森林セラピーでは、科学的なエビデンスを持って、専門的な場の整備とプログラムを提供することを重視しています。

森林セラピーの水療法(しなの町Woods-Life Community提供)

信濃町の先駆者としての歩み

信濃町は林野庁事業(「癒やしの森」事業)の立ち上げに呼応して、いち早く森林セラピー事業に着手しました。信濃町の取り組みの歴史を表1にまとめます。

表1 信濃町における森林セラピー事業の歩み

時期

段階

主な出来事

2000
以前

保養地と
しての
地域形成

・大正時代に野尻湖畔に外国人専用の別荘地
が形成(現在の国際村に)

・1960年代、野尻湖近くの森が大学関係者を
中心に分譲(現在の大学村に)

・黒姫高原近くの森に、いわさきちひろ等の
文人の山荘が点在

・C.W.ニコル氏が、1986年から荒れ果てた
里山を購入、「アファンの森」と名づけ、森の
再生活動開始

・スキー客を対象にしたペンションの立地
→大規模な開発を免れた豊かで静かな
自然の継承

2000年代
前半

森林
セラピーの
立ち上げ

・2002年、C.W.ニコル氏が「エコメディカル
&ヒーリングビレッジ構想」を提唱

・市町村合併が議論となるなか、町民有志が
地域づくりを検討するなか2002年に県から
「癒やしの森」事業のことを聞き、活路を
見いだす。

・2003年に「癒やしの森事業推進委員会」の
設置、事業を円滑に進める協働体制を構築

・2003年・2004年と「森林メディカル
トレーナー」の養成講座、「癒やしの森の宿」
の認定

・2004年、森林セラピーによる効果を医学的
に実証する調査研究

・2004年、町役場に「癒やしの森」係を設置

2000年代
後半以降

林野庁
事業の
全国転換

・2006年、林野庁が森林セラピー基地の
認定がスタート、信濃町が第1号認定

・2008年、東京のTDKラムダ(株)が
信濃町と最初の事業提携(社員研修で森林
セラピーを実施)

・2008年、林野庁により森林セラピー
ソサエティの発足

・2009年、林野庁により森林セラピーガイド、
森林セラピストの認定スタート

・2009年、信濃町の事業提携企業が10社を
超える。2012年には25社に

・2015年、長野県森林セラピー推進協議会
発足

2020年代

コロナ禍
での
新たな兆し

・森林セラピー事業の受け入れ窓口として
しなの町Woods-Life Communityの設立

・新型コロナ禍で法人の団体客減少、個人客
の増加

・2020年、森林セラピー基地(2つ星)認定

出典)信濃町資料、関係者ヒアリング等より作成

信濃町はもともと、森林等の自然資源を活かした保養地として形成されてきた町です。市町村合併が検討課題になった時に、森林セラピー事業を地域づくりの柱の一つとすることとし、推進の仕組みを戦略的に組み立て、地域ぐるみで事業を立ち上げてきました。当時、合併を選択しない自立を模索していた町民有志は、「地域づくりではあるものを活かすことが大事であるが町の7割を占める森林資源が活かされていない」ことを検討課題としていました。長野県から森林セラピー事業のことを聞いたとき「これだ、これしかない」と受けとめ、すぐに長野県と話し合いを始め、電光石火で事業に着手しました。

現在、森林セラピーは信濃町のノウハウを移植する形で全国に展開されています。そして、先駆者としての歩みを続けてきた信濃町は2020年に森林セラピー基地「2つ星」に昇格認定されました。森林セラピー基地は、森林セラピーの散策路と滞在・宿泊施設が整備され、リラックス効果の実証等がなされていることが認定条件となっていますが、信濃町は「積極的に森林セラピー基地へ人を呼び込もうという前向きな姿勢と、その目標のための具体的なプラン」が評価され、全国で2基地しかない2つ星となりました。

注1)2002年に信濃町で里山の整備を進めていたウェールズ生まれの作家・環境保護活動家のC.W.ニコル氏が「エコメディカル&ヒーリングビレッジ構想」を提唱し、これが長野県との連携が進んだきっかけになっています。具体的な事業の企画・推進は、町民有志、とりわけ、ペンションオーナー、自然ガイド、町役場の若手職員の3人が中心となってきました。

森林セラピーのトレーナー・宿・弁当のパッケージ化

信濃町における森林セラピー事業は、保養機能を高めた森と宿泊施設を提供するだけでなく、交流人口の増大による地域活性化を図ろうとするものです。信濃町の事業の優れた特徴として、次の3点があります。

  1. トレーナー・宿・弁当のパッケージ化
  2. 企業との協定を結ぶアイディアと医学的なエビデンス
  3. 住民主導の仕組みと多様な主体のパートナーシップ

順番に説明していきましょう。1つめは、「森林メディカルトレーナー」、「癒やしの森の宿」、「癒やしの森弁当」といった仕組みのパッケージ化です。森林の中を一人で歩いてもなんとなく癒やされる気になりますが、専門的な訓練を受けた案内の人がいて、さらに森林の持つ機能は十分に発揮されます。また、森林体験の後の宿が街中の都市ホテルであっては興ざめ、都市の日常を離れた場を提供してくれる宿はとても重要です。そして、地場の食材を使った健康的な食事。こうしたパッケージが森林セラピーの魅力と効果を高めます。

このパッケージは地域づくりとしても重要な意味を持ちます。メディカルトレーナーは町民から募集され、専門講師から研修をうけたメンバーが100人近くとなりました。つまり、森林セラピー事業への町民参加を図る仕組みになっています。癒やしの森の宿はスキー客の減少への対応や夏場の宿泊客の確保を課題とする宿泊業に、事業拡大の可能性を提供するものです。また、癒やしの森弁当は地域の高齢者の野菜づくりを促し、それによって社会参加と健康寿命を延ばす効果があると考えられました。

また、森林セラピーでは、地域にある黒姫童話館、野尻湖ナウマンゾウ博物館、一茶記念館等も散策コースに組み入れています。森林セラピーはばらばらとある地域資源をつなぎ、活かす役割を果たします。

このように、信濃町の森林セラピー事業では地域外からのゲストと地元のホストの両方にメリットがある地域づくりの仕組みがつくられています。

表2 信濃町の森林セラピー事業のパッケージ

内容

関連する地域主体

森林メディカル
トレーナー

専門的な研修を受け、利用者と
一緒に森に入り、五感を開放させ
森林療法や健康チェック。
免疫療法を行い利用者の
健康づくりを支援する。

主婦
宿泊業オーナー
自然観察指導員
アロマセラピスト
森林組合員等の地元
住民

癒やしの森の宿

静かな環境の中でアロマオイルや
ハーブティ-・薬草茶の提供を
行う。
食事では、朝採り野菜・きのこ・
薬草等の郷土食材を使い
おもてなしをする。

地元のペンション
ホテル

癒やしの森弁当

地元の有機野菜等をたっぷり
使った手づくりの優しい味の
お弁当。
アレルギー対応可能、マクロビ
とティックで提供することも
できる。

地元の高齢者等
(現在は専門業者)

出典)信濃町資料より作成

医学的なエビデンスの重視と企業との提携

ドイツやオーストリアでは、森林セラピーが保険で利用できるようになっています。このことから、日本でも保険適用にできないかと考え、森林セラピーの効果の医学的なエビデンスをとることが重視されています。信濃町でも、2004年に専門家の指導を得て、森林セラピーのパッケージの試行による効果測定がなされています。森林メディカルトレーナーによる森のコースの案内、癒やしの森の宿での宿泊等の体験による効果を測るために、血中のリンパ球や血圧などの変化を測定し、効果を確認されました。

この他、森林セラピーの効果については、様々な研究が行われています。都市と森林の中を比較すると、森林の中で脳の活動が穏やかになること、ストレスホルモンが減少することが明らかになっています。また、森林浴により、ガン細胞やウイルスから体を守るナチュラル・キラー細胞の活性が高まるというデータも示されています。

こうしたエビデンスを武器にして、信濃町は企業等と提携し、森林セラピーを利用する団体客の確保を狙いとしてきました(注2)。企業では従業員のメンタルヘルスが課題となっており、それを原因とした離職が多いといわれます。また、企業が直接、保有する保養所は縮小傾向にあります。こうしたニーズを捉え、信濃町では健康づくりのエビデンスを武器として、企業等の保養所となるように働きかけ、提携を実現してきました。

現在、提携先の企業等は38団体となっています。大手民間企業の他、業界ごとの健康保険組合、大学等も提携先になっています。これらの提携先では、信濃町での宿泊に補助を出すようにしていますが、近年では森林セラピーの体験費用にも補助をするところが現れています。ドイツのように保険適用で森林セラピーが体験できるとはいきませんが、エビデンスを訴求してきた成果といえます(注3)。

森林セラピーで体験できるメニューの例を表3に示します。「森がカウンセリング」というメニューは、森を歩いていて、気に入った場所や感性がピンとくる場所を見つけ、30分くらい過ごしてみよう、というものです。人がカウンセリングをするのではないという点に注目してください。

表3 信濃町の森林セラピーのメニュー例

メニュー分類

内容

五感の開放

アイスブレイク、ストレッチ、自然観察、芳香療法

リラックス

丹田式呼吸法、ティータイム、調和療法、ハンモック

免疫療法等

爪もみ療法、水療法、森がカウンセリング、振り返り

注2)森林セラピーの効果のエビデンスづくりは、効果を疑う地域住民の理解を促すためにも使われました。地域住民は普段から、森と接しており、森林の効果を感じないという声があったわけです。森林セラピーの効果へ検証されてきたわけですが、日常とは違う場所で体験するという「転地効果」もあるとされます。実際、地域住民への効果は都市からのゲストが得る効果ほどではないのかもしれません。
注3)実際には、企業との連携を図るための契約を取ることは簡単ではありませんでした。森林セラピーだけだと、信濃町は疲れた人の行く所になってしまうため、社員研修となるように、森林の中でコミュニケーションを育てるようなプログラム、チームビルディングになる登山や座禅、学生による合宿やコンサート等による交流など、森林セラピー以外のプログラムも導入されています。

森林セラピー事業におけるパートナーシップ

信濃町に森林セラピー事業は、「地域ぐるみで行う、専門性をもった、地域づくりの事業」として、企画されました。このため、地域ぐるみで取り組む体制や専門家との連携、地域住民の理解と参加を重視して、進められてきました。

地域ぐるみの取り組みという点では、信濃町の事業が住民から主導され、行政もそれに呼応し、「癒やしの森係」を設置し、住民と行政の協働体制が構築されたことが重要です。行政主導、あるいは住民だけの取り組みでは、このような成果を得るに至らなかったでしょう。また、運営のための事業推進委員会は、行政が事務局となり、町内の農林水産業から商工業、観光業関係者、インストラクター、学識経験者で構成され、地域ぐるみの取り組みを調整する場として役割を果たしてきました。

専門家との連携という意味では、森林セラピーのエビデンスを得るうえで医療分野の研究者や町内の病院が重要な役割を果たしました。そして、マーケティング的なセンスをもった事業企画や関係者の意欲を引き出すワークショップの運営等において、委託事業を受けた専門コンサルタントや行政関係機関の関係者の仕事もありました。
そしてなにより重要なのが、地域主体が担い手となって専門的な研修を受け、「森林メディカルトレーナー」を育成し組織化したことであり、他地域が追随できない信濃町ならではの優れた点です。

町の公募に申し込み、トレーナー養成の研修を受けた人々は100名近くとなり、さらに研鑽を積むために「信濃町森林療法研究会-ひとときの会-」が生まれました。この団体の会長に指名されたのが子育てに追われていた専業主婦の方です。この会では、(1)トレーナーとしての資質向上のための現場研修、(2)独自のプログラムの開発、(3)町民に対する広報活動等を自主的に行っています。町民参加の仕組みができることで、地域づくりのリーダー達が行政と協働して進める事業が、より内発的で住民参加型のものとなりました。

森林セラピー事業の受け入れ業務が拡大してくるなかで、癒しの森の窓口やお客様の受け入れ業務等の担い手として、「しなの町Woods-Life Community」が設置されました。これは、「信濃町森林療法研究会-ひとときの会-」、「一般財団法人C.W.ニコル·アファンの森財団」、「株式会社さとゆめ」の3者が集まった共同体です。株式会社さとゆめは信濃町の森林セラピー事業の立ち上げの際に支援したコンサルタント職員が独立、創業した会社で、継続的に地域づくりに伴走することを理念として、各地でミラクルを実現しているまちづくり会社です。

森林メディカルトレーナー(しなの町Woods-Life Community提供)

信濃町の森林セラピーの経済・社会・環境面の効果

信濃町の森林セラピー事業の効果は、経済面、社会面、環境面に分けて、捉えることができます。経済面の効果は定量的に捉えられています。新型コロナで移動が制限される前の2019年度には、トレーナー料金収入として1,000万円があり、森林セラピー関連の宿泊で4,000人/年の宿泊がありました。森林セラピー関連の経済波及効果は地域全体で年間1億円程度と推定されています。また、信濃町の知名度やイメージが高まったことによる間接効果もあり、森林セラピーによる経済効果は十分に大きなものです。

社会面の効果は、定性的ではありますが、地域ぐるみ・住民参加による地域づくりの事業として計画・実践されてきたことにより、森林セラピーに関わる主体が多く、それぞれの主体性や主体間の関係性が高まっている点が重要です。こうした側面は「コミュニティ力」の向上ということができます。

環境面の効果としては、森林セラピーのための森の整備により、生物生息空間としての森の保全があります。製紙等のために伐採された森林は放置されると荒れた森となりますが、人が整備することで、人が自然とふれあうことのできる明るい森となります。

ゲスト(都市・企業)側の効果もあります。信濃町と提携した企業では、森林セラピーや自然の中での研修により、従業員の離職率が低下したという結果が得られています。

表4に各効果に関連するSDGsの目標を整理しました。信濃町ではSDGsをテーマにして地域づくりに取り組んできたわけではありませんが、SDGsのゴール間を結びつけて、統合的解決を図っている事例になっています。

表4 信濃町の森林セラピーの効果

効果側面

効果の具体例

関連する
SDGsの目標

ホスト側

経済面

・森林メディカルトレーナーの料金
収入

・森林セラピー関連の宿泊による
収入

・森林セラピーでの訪問時の地域内
での飲食、土産購入

・地域イメージの向上による観光客
や地域産品消費の増加

8:経済成長

社会面

・住民の主体性や住民間の関係性
コミュニティ力の高まり

・信濃町に思いをもつ関係人口の
増加

・地域医療の維持・強化(医師の
増員)

・高齢者の参加による生きがいづくり
や健康づくり

17:パートナー
シップ

環境面

・森林セラピーのための整備による
森林の保全

・森林の持つ価値に対する地域住民
の理解

・人間の健康と関わる自然を大切に
する意識の向上

・森林保全による生物多様性の向上

15:陸の豊かさ

ゲスト側

・企業における従業員のリフレッシュ、
健康づくり

・従業員の離職率の低下

・自分を見つめる時間の大切さや
自己の内面への意識向上

・体験による森林や自然に対する
意識向上

3:健康と福祉

出典)信濃町資料やヒアリングにより作成

新型コロナによる状況変化と信濃町の新たな可能性

ここまで記してきたように、信濃町は地域資源である自然の力を活かした地域づくりに成功してきた地域です。取り組みのパッケージ化、都市の企業向けのマーケティング、医学的なエビデンスづくり、住民主導とパートナーシップ等、その取り組みは上手くデザインされており、地域づくりを学ぶ教科書のようです。

(自然保全・活用)×(健康福祉)×(地域活性化)×(都市地方の連携)というかけ算をカタチにしている点では、SDGsにいうところの様々な問題の統合的解決の見本にもなります。

もちろん新型コロナは企業の団体客を激減させ、他地域と同様に信濃町も大きな影響を被りました。しかし、マイナス面ばかりではありません。リモートワークによるストレスは森林セラピーの需要を高めています。また、リモートワークの定着により、ワーケーションというスタイルが生まれ、自然の中で都市とつながりながら仕事をするという可能性も生まれています。実際に、信濃町のペンションでは個人客が増えています。

このことは、企業との提携・従業員の保養・研修の受け入れという戦略をたてて、成功を収めてきた信濃町の森林セラピー事業の新たな可能性を示唆しています。たとえば、企業と提携したワーケーション事業や、従業員の個人的なワーケーションの受け入れ等が新規事業になっていく可能性があります。また、企業を離れて信濃町でリモートワークを行うことを前提に起業をする若者の移住の受け入れが活発化する可能性もあります。

ただし、森林セラピーの効果は、仕事を離れて自然の中にいることで得られることを考えると、信濃町に都市の仕事をそのまま持ち込むことには問題もありそうです。信濃町にいながらも、森林に出かけず、都市とつながるリモートワークに専心するようでは、何のために信濃町にいるのか、ということになります。リモートワークをするのはいいのですが、自然や人とのつながりがある場にいて、ゆとりのある時間を過ごすことで、人間らしい精神の豊かさを成長させていく、そうした生きかたを大切にする人々が集まる町でありたいものです。

信濃町のキャッチコピーは「失われた時間をとりもどす町」。都市で時間に追われ、時間を失っている人々に森林セラピーの意義を訴求しています。そして、これからはとりもどすだけでなく、その先を目指して、「とりもどした時間を大切にして、人間らしさを高めていく町」として、さらに発展していくことが期待されます。

滝に向かって深呼吸(しなの町Woods-Life Community提供)

次回は、「コミュニティ・ビジネス」の事例をとりあげます

記事カテゴリー
SDGsの基礎知識