SDGsとフェアトレードビジネス──フェアトレードビジネスの現在地③

2021年07月13日

SDGsが掲げる2030年のゴールに向けて、フェアトレードはどのような役割を果たすのでしょうか?
日本のフェアトレード関係団体・店舗等の組織であるFTFJ(日本フェアトレード・フォーラム)のフェアトレードタウン認定委員長であり、逗子フェアトレードタウンの会 共同代表でもある長坂寿久さんが解説します。【最終回】

語り/長坂寿久 構成/講談社SDGs

フェアトレードは、SDGs17のゴールすべてに関係する

フェアトレードは、SDGsのゴール17項目すべてに直接的・間接的に関わっています。ですから、企業がSDGsへの取り組みを進める有効なツールとして、フェアトレードは重要な意味と役割を担っているといえます。

SDGsは、2030年までに達成する、世界共通の目標です。日本国内でもようやくSDGsの認知度が向上し、最重要課題と捉えて経営に取り込む企業も増えてきました。

背景には、地球温暖化の"実態"と共に、特にいわゆる「Z世代」(1990年代以降に生まれた世代)と呼ばれる若年層のSDGsへの関心の高まりがあります。彼らは「関心」のみならず、「アクション」につながる世代ともなっています。もはや企業にとってSDGsは、ニューノーマル時代におけるビジネスチャンスを創出するだけでなく、優秀な人材を確保するための、将来の市場確保のために、非常に重要なキーワードとなっています。

しかしその目標達成のためには、政府・自治体、企業、市民団体(NPO等)が協調・協力、つまり協働して取り組む必要があります。

なぜなら、SDGsが掲げる目標は、国家レベルでの社会課題であることはもちろんですが、同時に各々の地域が直面している課題でもあるからです。国や大企業のみならず、SDGsをローカルアジェンダとしても認識し、各地域で対応を検討し、行動することが大切です。

まずは自治体、NPO(市民団体)、商工会、企業、市民がSDGsを理解し、自分たちが取り組むべき課題を設定することがその第一歩です。

FTFJのフェアトレードタウン認定委員長、逗子フェアトレードタウンの会 共同代表 長坂寿久さん

ローカルアジェンダを解決する「フェアトレードタウン」

フェアトレードは、ローカルアジェンダの解決にも活用可能です。街全体でフェアトレードを応援する「フェアトレードタウン」は、その好例と言えるでしょう。

フェアトレードタウンは、SDGs達成のために「地域一丸となって、フェアトレードを推進します」と議会が決議し、首長が宣言を行い、市民が中心となって進めるまちづくりの新しいカタチです。トップダウンではなく、市民活動を通じたボトムアップ、つまりボランタリー(自発的)な運動(意思)を中心に展開され、市民と自治体との協働関係によって広がっていくのが特長です。

トップダウンのまちづくりでは、どんなにいい施策でも、市長が交代してしまえば変わってしまうことがあります。しかし市民活動がベースとなってつくられたフェアトレードタウンの施策は、個々の市民の意思に基づくもののため、変化に強く、継続性があります。フェアトレードタウンは、市民が中心となって進める、まちづくりの新しいカタチであり、SDGs同様、広がり始めています。

2000年にイギリスで始まった「フェアトレードタウン運動」(市民中心のフェアトレード推進運動)は、イギリスから欧州各国に広がり、今ではアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本などの先進国のほか、開発途上国にまで、国際的な広がりをみせています。

日本では2011年に熊本市がはじめてフェアトレードタウンとなり、その後、2015年に名古屋市、2016年に逗子市、2017年に浜松市が認定されました。2019年には札幌市と三重県いなべ市も認定され、さらに多くの市民団体が「フェアトレードタウンになろう!」と、現在も積極的な活動を展開しています。

ちなみに、フェアトレードタウンになるためには、国際的なフェアトレードタウンの基準を満たす活動を続ける必要があります(国際的には5基準ですが、日本は1基準を加え6基準となっています)。そのハードルは決して低くありませんが、自治体はフェアトレードに積極的に取り組むことで、世界とつながった、よりフェアなまちづくりを目指す都市として国際的に認定された形となり、地域の社会的・経済的活性化に寄与し、より多くのローカルビジネスを創出・拡大するチャンスを得ることも可能です。

たとえば、逗子市の場合は、地域ブランドのフェアトレードコーヒー「ZUSHI COFFEE」(これは企業との協働開発です)や特製チョコレートやその他フェアトレード商品の開発。地域のレストランとの協働で、フェアトレード産品と地場作物を各々1品目以上使用した、ランチメニューを提供するキャンペーンなどを行っていて好評を博しています。またフェアトレードタウンでの、企業との協働イベントも増加傾向にあります。

大学ぐるみで取り組み「フェアトレード大学」

フェアトレードタウン運動は、「まち」というコミュニティにおいて、"まちぐるみ"でフェアトレードを普及しようとする取り組み。「大学」というコミュニティにおいて、"大学ぐるみ"でフェアトレードを推進する取り組みは「フェアトレード大学運動」と言います。

2003年、英オックスフォードにある「オックスフォード・ブルックス大学」が初のフェアトレード大学に認定。その後、世界各地に広がっています。

日本国内でも、フェアトレード大学への関心は高まり、2018年2月に静岡県浜松市の静岡文化芸術大学が日本初のフェアトレード大学に認定。2019年に札幌学院大学、北星学園大学が、さらに2021年5月には、学生数1万8000人の青山学院大学がフェアトレード大学に認定されています。若年層のSDGs意識の高さを考慮すれば、今後日本でもさらに取り組みは加速し、フェアトレード大学は増えていくのではないでしょうか。
これらフェアトレード大学では、学生のフェアトレード推進団体と企業とのコラボによる大学独自の商品開発に取り組むプロジェクトも生まれています。

高校生以下を対象とした「フェアトレードスクール」

加えて、欧米では、高校生以下を対象とした「フェアトレードスクール」も広がりを見せています。しかし残念ながら、日本ではまだスタートしていませんが、導入へのシステム作りが進められています。

小学校からSDGsを学んでいる子どもたちは、フェアトレード活動にも高い関心を持っています。逗子でフェアトレードイベントを開催すると、小学校の「生徒が先生を連れて来る」という新しい現象も起きています。

これを企業目線で捉えると、フェアトレードに取り組むことは、将来の消費者や従業員になり得る層へのアピールになると言えます。学生たちのフェアトレード活動も活発になってきていることを考慮すれば、今後ますます企業のフェアトレードへの取り組みは重要視されていくのではないでしょうか。

フェアトレードは、正しく発信していくことも重要

近年、「エシカル(倫理的=環境保全や社会貢献)」という言葉をよく耳にするようになりました。エシカル商品の中にはフェアトレードも含まれますから、エシカル市場の拡大は歓迎すべきことです。

「フェアトレード商品」には、WFTO(世界フェアトレード連盟)が中心となって国際的に認めるなど明確な基準が存在し、日本のフェアトレード団体はそれを広報しています。

また、FI(フェアトレード・インターナショナル)などのフェアトレード認証(ラベル)制度があり、日本にもそのFIのネットワーク団体(FLJ=フェアトレードラベル・ジャバン)があり、日本での認証を担当しています。一方で、「エシカル商品」には、多様過ぎるため定まった基準がなく、国際的には多くの個別のエシカル認証制度はあるものの、日本独自のエシカル認証ラベルもほとんどありません。

エシカル消費が広まり、買い物する商品に対する消費者としての認識と責任が高まり、それによってフェアトレードが身近なものになっていくのは喜ばしいことです。そうなれば、企業も生産者としての責任意識を一層高めざる得なくなります。

しかしSDGsウオッシュ(SDGs活動をやっているふり)があるように、エシカルもその基準があいまいなゆえに、「エシカル商品」は"エシカル風"を生み出す危険性もあります。本当は地球に優しくないのに、エシカルを名乗り、消費者が手にしてしまう。結果、エシカルをビジネスに活用したことで、企業イメージを損なってしまうといった危険性もあるでしょう。

それを防ぐには、フェアトレードやエシカルを正しく理解し、正しく発信していくことが重要です。その先に「本物のエシカル商品」があり、「真に支持される(持続可能な)企業」が誕生するのではないでしょうか。そのためにも、社員自身がフェアトレードと関わる仕組みを社内に作ること、たとえば、社内の飲み物のベンダーにフェアトレードコーヒー缶を入れる、社員食堂のメニューにフェアトレード食品を使ったものを提供するなどを通して、その入り口をつくることも、企業がフェアトレードと関わるSDGs的取り組みの第一歩だと思います。

SDGsに無関係な人はいません。その17のゴール(目標)すべてに関わるフェアトレードも同様、無関係な人は存在しません。フェアトレードは気候変動問題を含め、SDGsが問いかける世界と地球の課題への入口へ私たちを導く、もっとも身近な取り組みです。一人ひとりの手が、フェアトレードと関わることを通して、「他者」の手とつながり、それによって持続可能な未来の実現へと少しでも近づいていくことになるでしょう。

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SDGsと担当者